雨になりたい

雨になりたい

作者 天井 萌花

弟 https://kakuyomu.jp/works/16818093081609359558


 いつも明るい双子の兄の様子がおかしいと知って迎えに行き、ひまわりに例えて励まし、優しさを少しでも返せる雨になりたいと願う弟の話。


 数字は漢数字等は気にしない。

 現代ドラマ。

 兄弟愛の素敵な話。

 前半は弟、後半は兄の感想を掲載。


 主人公は、双子の弟。一人称、俺で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。


 女性神話とメロドラマと同じ中心軌道に沿って書かれている。

 主人公の兄はいつも明るくて元気で眩しい人だが、つまらないことで凹むことをわかっている。ある雨の日。帰宅した主人公は、友人からのメッセージで、兄の様子がおかしかったと知り、いつまでも帰って来ない兄を迎えに再び出かけていく。

 公園のトンネルに隠れている兄を見つけ、話を聞く。兄は何かに悩んでいるが、具体的なことは話さない。主人公は兄を励まし、小一の夏休みに父が車で連れて行ってくれた少し遠くの公園に咲いていた向日葵を兄に例えて、その明るさと強さを称える。「だから何かあっても、兄さんなら大丈夫だと思う! 来る途中に咲いてた向日葵だって、雨でもへこたれてなかったもん」

 雨が止んで晴れ間が見える中、じっと向日葵を見つめる兄を家へと連れ帰る。向日葵のような兄には慣れにが、優しさを少しでも返せる雨になりたいと願いながら。


 雨の降る日の謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どんな結末を見せてくれるのか気になる。


 書き出しが、世界観の雰囲気をよく表しているのがいい。

 遠景で降り続く雨がアスファルトの道を濡らすのを描き、近景で、足元の浅い水たまりを踏んで水が跳ねる様子を描いて、心情で、湿気た空気が髪を濡らすのがどうしても気になってしまう気持ちを語る。

 水が跳ねるより、湿気て髪が濡れるほうが気になるところに、主人公の性格を感じるのもいい。

 兄を迎えに行くのに、足元の汚れは仕方なくとも、身だしなみには気を使う、みたいな。それだけ兄に対して、敬意を払おうとしている現れだと考える。こういうところは、主人公の人間味を感じる。

 主人公は双子の弟、というところい特別な感じがする。

 せっかく帰ってきて、着替えて部屋を除湿したのに、また雨が降る外へ出かけるところは、ちょっと可愛そうに見える。そういうところから、主人公に共感をもてる。


 兄と同じクラスの友人から、『今日お前の兄貴変だったぞ』とDMが届いている。主人公と共通の友人なのかもしれない。


 長い文にならないよう改行がされていて、一文も句読点を用いられているし、短文と長文をつかってリズムよく書かれているし、ときどき口語的で、会話を挟むなどして読みやすい。

 一人称視点で、主人公の内面の感情や思考が詳細に描かれていて雨や向日葵といった自然の要素を使って、登場人物の心情や関係性を上手く表現しているのがいい。

 五感の描写では、視覚や聴覚、触覚を用いられている。視覚では、雨に濡れたアスファルトや浅い水溜まり、薄暗いトンネル、向日葵の花などが描写されている。聴覚は、雨の音や兄を呼ぶ声、スマートフォンの振動音など。触覚は、濡れた砂が靴底に纏わりつく感覚や、湿気たコンクリートの冷たさなどが描かれている。


 主人公の弱みは、人見知りが激しく、意思疎通が上手くできないこと。兄に対して劣等感を抱いているが、それでも兄を支えたいと思っている。

 これらの弱みがあるから、どう克服しようと行動するかによって、面白いドラマになっていくのだ。だから、一度帰った後、また雨の降る外へ出かけるし、自分が嫌なことあったとき来る公園は、いつも兄が見つけてくれる場所でもあること。

 双子だけあって、二人は対になっている。

 それでも違うところもあって、明るくて社交的で友達も多い兄

と、狭い交友関係の主人公。

 そんな主人公の性格や価値観、過去にどのような行動を取ったか、直面している問題や葛藤の描写から、兄を探し、見つけ、励ます行動は、予測しやすかった。

 それでも、自然描写が豊かで、情景が目に浮かぶように描かれているところは良かったし、主人公と兄の関係性が丁寧に描かれ、とくに向日葵の比喩が効果的で、兄を象徴的に表現しているところもイメージしやすくてよかった。

 主人公自身は雨にたとえ、してもらったお返しをしようとする気持ちも、よく伝わった。

 

 読後、タイトルの「雨になりたい」もそうだけれども、雨上がりの爽快感のような、すっきりした印象には足らない。

 兄の悩みがなんだったのかがよくわからないからだ。

 しかも主人公の内面描写が多い分、兄との対話シーンが少なく感じる。社交的な兄の割に自分のことを話さないところが、かえって抱えている問題の重みを感じる。

 そう考えると、タイトルから感じる雰囲気は合っている気もする。

 兄に、一体なにがあったのかしらん。

 対人関係に関する問題である可能性が高い。

 テストの点数などの問題であれば、兄は笑いながら話す。頑なに口を割らないため、友人やクラスメートとのトラブルや誤解、あるいは言い辛い人間関係の悩みなのかもしれない。



雨になりたい

作者 天井 萌花

兄 https://kakuyomu.jp/works/16818093081609317827


 クラスメイトを傷つけて悩み、雨の降る公園にいる兄を弟がみつけ、励まされるも、雨のように取るに足らない存在になりたいと思う話。


 本作は、同タイトル『雨になりたい』の双子の兄視点の作品。

 感情豊かで共感を呼ぶ物語。


 主人公は、双子の兄。一人称、僕で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。


 それぞれの人物の想いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプの中心軌道に沿って書かれている。 主人公の双子の兄は、クラスメイトを傷つけてしまったことに悩み、公園で雨宿りをしている。弟が彼を見つけ、優しい言葉で励ます。弟の言葉に心が救われるが、主人公は自分の軽薄さを痛感し、雨のように取るに足らない存在になりたいと願う。


 雨の中、公園にいる謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎がどう関わり、どんな結末をもたらすのか気になる。

 本作と対を成している同名の『雨になりたい』と同じ「しとしとと降り続く雨」から書き出しがはじまっている。

 なぜ、紋切り型の「しとしと」を用いていたのか気になっていた。雨のオノマトペとして、「ザーザー」や「しとしと」、あるいは「バケツをひくり返したような」などの表現は、自分ではない誰かが言いだした言葉で、すでに他人の手垢がべったりとついている。ボキャブラリーを覚えている小学生や、はじめて小説を書いた子ならいざ知らず、創作を志して書いている人は表現にこだわりを持ちたいもの。

 どうしてだろうと気になっていたけど、二作を揃えるため、兄弟それぞれの視点で読むことで、物語の世界が見えてくることを伝えるためだったのかと、本作を読んで納得した。

 遠景で雨が降る公園にいることを示し、近景で具体的にどこにいて、どういう状態かを示し、心情で、毛先に絡みつく不快感を抱いていることを伝えている。場面の情景が浮かんで、読み手は主人公に共感していく。


 長い文にならず改行をこまめにし、一文は句読点を用い、ときに口語的で読みやすくしている。会話が自然で、登場人物の性格を感じさせている。五感と動きを組み合わせて感情を示し、繊細で感情豊かな描写がされているのが特徴。内面的な葛藤や感情の動きも丁寧。弟との対話を通じて、弟の優しさと主人公の弱さが対比されており、主人公の心の変化が描かれている。

 五感を使った描写が豊かで、情景を鮮明に伝えている。視覚では、雨が降り続く公園やトンネル型の遊具、向日葵の花などが描かれている。触覚では、雨の湿気が肌を撫でる感覚、毛先に絡みつく不快感、ひんやりしたトンネルにもたれかかるなどが表現され、聴覚は弟の優しい声、雨音などが描写されている。


 主人公である兄の弱みは、クラスメイトを傷つけてしまったことに対する後悔と自己嫌悪。弟に弱い姿を見せたくないというプライド。自分の軽薄さを痛感し、取るに足らない存在になりたいという願望。

 そんな主人公の主性格や価値観、過去にどのような行動を取ったか、直面している問題や葛藤から、次にどんな行動を取るのか、予測しやいが、予想を裏切る展開が弱く感じるのは、弟の話を読んでいるからかもしれない。この先、主人公である兄がどんなことを口にし、どういう行動をしたのかを知っているため、内面から予想外な驚きに至らないのかしらん。

 あるいは、兄の感情が急過ぎるのかもしれない。

 たとえば、「その瞬間、彼の顔が一瞬固まったのを見逃さなかった。みんなに合わせた笑顔が引きつっているのに、僕も気づいていた。嫌だったのかな、なら明日の朝謝ろう。なんて思っていたのに――彼は今日、学校に来なかった。たまたま体調を崩しただけかもしれない。でも気になって、連絡しようとした。そしたら、SNSをブロックされていることに気がづいた。同時にようやく、自分が取り返しのつかないことをしたことに気がついたのだ」みたいに、主人公が傷つけたことに気づく過程、クラスメイトの表情の変化や周囲の反応などを具体的に描写することで、主人公の罪悪感が徐々に高まる様子を描いていたらどうだろう。

 弟に会いたくない理由を、「おかえり」と出迎えるだけでなく、家での弟との出来事を回想する場面を描いて内面の葛藤を深めたり、主人公の暗い思考と弟の明るい言葉や行動の対比をさらに強調してみるのもいいのではと想像する。

 

 こちらも、主人公の内面的な葛藤と弟の優しさが美しく描かれたいい作品。

 取り返しのつかないことをした、悪いことしたなと思ったなら、そういう気持ちが態度や素振りに現れる。謝りたいなら「ごめん」と謝る。それでどうなるのかは、わからないけれども、悪いことをしたと思っているのなら、行動して言葉で伝えないと、相手は自分の気持ちはわからない。エスパーではないのだから。

「取るに足らない存在になってしまえば、彼を傷つけずに済むはず」弟の優しさすらはねのけて雨になりたいと言っているけれども、雨h人の心の乾きを潤し、癒やし、恵みの豊穣をもたらす。決して、取るに足らない存在ではない。

 物事には、良い側面と悪い側面がある。一方ばかり見ていては、本質を見失い、過ちを犯してしまう。そのことを描きたくて、本作は双子の兄弟の話なのだと推測する。

 兄が立ち直る鍵は、やはり弟にありそうだ。

 

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