Sugar Night

Sugar Night

作者 夜野十字@NIT所属

https://kakuyomu.jp/works/16818093078197227007


 クリスマスの夜、先輩に告白できなかった主人公は、先輩を思いながら一人でブッシュ・ド・ノエルを食べる話。


 現代ドラマ。

 失恋もの。

 感情豊かで繊細な描写が魅力的な作品。


 主人公は、後輩。一人称、私で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。


 女性神話の中心軌道に沿って書かれている。

 主人公は先輩のことが好き。でも告白することが出来なかった。先輩がチラシを見て「かわいい」とこぼし、甘いものは好きではにけどチョコなら食べられると教えてくれたから、絶対に告白を成功させて、先輩と一緒に食べるんだと息巻いて、コンビニで予約していたブッシュ・ド・ノエル。

 主人公はクリスマスの夜、恋人たちが楽しむ街を一人で歩いている。彼女は先輩に告白できなかったことを後悔し、コンビニで予約したブッシュ・ド・ノエルを一人で食べる。先輩のことを思い出しながら、彼女は寂しさと後悔に涙を流すのだった。


 粉雪が砂糖に見える謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どんな結末に至るのか、興味がある。

 書き出しの「ヒラヒラと粉雪が舞っている」がモヤッとした。

 粉雪のオノマトペは、ヒラヒラでいいのかしらん。

 粉雪を表現するのに適したオノマトペには、「さらさら」や「チラチラ」がある。「さらさら」は雪の粒が細かく、水分が少ないために軽く積もる様子を、「チラチラ」は粉雪が風に舞いながら降る様子を表現するのに適している。

 粉雪を「ヒラヒラ」と表現する理由は、視覚からきているのだろう。

 空中で漂う様子を視覚イメージしやすくすることで、粉雪のもつ儚さや美しさを感じさせようと、作者は意図したのかもしれない。

 

 遠景で、粉雪を見て本当に砂糖みたいと思う思考からはじまり、近景で街を行く人々の様子を見る行動をし、心情で先輩を思い、寂しい感情のため息を付く。

 導入の冒頭は、客観的に状況を描きながら主人公の気持ちが伝わり、読み手はぐっと共感できるところがいい。


 クリスマスという特別な日。主人公は先輩を思い、一人きりという寂しい状況。「そもそも彼女とかいたのだろうか。もしいるのだったら、おそらく今頃はその彼女と一緒に過ごしているのだろう。実際のところは何もわからないのに、なぜか私には彼女の横で笑う先輩がありありと想像できた」と思うところから人間味、恋する乙女の感じがする。

 勇気を出せず告白できなかったから一人でいる様子は、可哀想に思えてならない。こういうところに読み手は共感してしまう。


 主人公一人による、内省的なモノローグ。長い文にならないよう、五行くらいで改行し、会話はないが口語的で読みやすい。繊細で感情豊かな描写、季節感と情景描写が豊かに描かれていて、主人公の感情がリアルに伝わってくるのがいい。

 五感を使った詳細な描写で情景を鮮明に伝えており、視覚で粉雪が舞う様子、街のクリスマスの輝き、ブッシュ・ド・ノエルの飾りを描き、触覚では冷たい空気や膝に積もる雪、味覚は甘さ控えめのクリームやチョコレート味、聴覚は静かな夜の音、嗅覚ではクリスマスケーキの香りを感じる。

 

 主人公の弱みは、勇気が出せず、先輩に告白できなかったこと。その結果、一人で過ごすクリスマスの寂しさを味わい、自分の行動に対する後悔を続けている。

 先輩との具体的なエピソードがもう少しあると、主人公の感情に深みが増す気がする。予測内なので、展開にもう少し変化があったら良かった気もする。


 告白前に、勝手に振られたことになっている。しかも自分に勇気がないばかりに。

 こういう片思いをしている人は、世の中には多いと思う。

 なにも相手が人の場合だけとは限らない。

 欲しいもの、生きたい場所、好きなもの。

 いいなと思いながら、なにかが足らず、叶えることが出来ずに一人で悲しみと寂しさに浸ってしまう。

 悲劇のヒロインを気取っているような印象がある。

 彼女を反面教師とし、やらなくて後悔するよりもやって後悔する生き方を選ぶことを、密かに教えてくれているのかもしれない。

 

 読後、タイトルを読みながら、今夜だけは甘い夢をみたかった彼女の気持ちが伝わってくる。それだけ、主人公の内面の葛藤がよく描かれており、感情豊かで繊細な描写が魅力的な作品だった。





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