アイスクリーム殺害事件
アイスクリーム殺害事件
作者 粟野蒼天
https://kakuyomu.jp/works/16818093081724630894
二年六組でおきたアイスクリーム殺害事件。犯人はアイスクリームにいじめられていた少女だった。以前少女を助けていた主人公は感謝され、一緒にアイスを食べに行く話。
誤字脱字文章の書き方等は気にしない。
ホラー。
発想が斬新。
ユーモアとシリアスを上手く混ぜている。
主人公は、男子学生。一人称、俺で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。
それぞれの人物の想いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプの中心軌道に沿って書かれている。
二年六組の教室で、バニラ味とチョコミント味のアイスクリームがドライヤーで溶かされて殺されたという奇妙な事件がおき、学校はしばらく封鎖されることになった。
主人公はこの事件に対して疑問を抱き、周囲の人々が平然と受け入れていることに困惑している。図書館で黒髪の少女と出会い、彼女がアイスクリームを殺した犯人だと知る。「人ってさ見たくないものからは目を背くことはできるけどそれも永遠じゃないんだよね」
彼女の言葉から、少女の身体は傷だらけだと気付く。少女は半年前、アイスクリームたちにいじめられていた自分を助けてくれた主人公に感謝しつつ、アイスクリームを殺した理由を語る。なぜアイスクリームが殺されたと認識したのだろうと自問するも、最終的に二人はアイスクリームを食べに行くことにするのだった。
アイスクリームが殺された謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どんん結末に至るか気になる。
実に興味を引く書き出しである。
これまでカクヨム甲子園では、さまざまな作品が応募されてきた。昨年のレモンティーが自殺する作品に匹敵するほど、驚かされた。
学校や周辺地域ではこの話題で持ちきりの事件に対して主人公は、「意味が分からない。なんなんだよアイスクリームが殺されたって! 意味不明すぎる。俺がおかしいのか?」と憤っているところに人間味を感じる。しかも「奇妙すぎる。俺以外の人間がこの状況を平然として受け入れてる」主人公以外は、意外と冷静だという特異性に興味が惹かれるし、主人公だけが取り残されたような状況に、かわいそうだと思えてくる。そういったところに共感していく。
長い文にならないように改行をこまめにしているけれど、読点で区切られず長い一文がたまにある。カジュアルで軽快な会話調が特徴。主人公の内面の独白や、少女とのやり取りが中心に書かれ、ときに口語的で読みやすく、会話文は登場人物は性格を感じられるように書かれている。
五感の描写では、視覚的刺激はアイスクリームが溶けてべちゃべちゃになっている様子や少女の傷だらけの身体が描写され、聴覚は、少女の声色が変わる場面や彼女の笑い声が描かれている。
主人公の弱みは、周囲の奇妙な状況に対して理解できず、困惑していること。少女のいじめを助けたことを覚えていないことに対して、申し訳なさを感じている。
主人公の性格や過去の行動、直面している問題や葛藤から、忘れっぽさや奇妙な状況に理解できない困難さがあると考えられ、少女の「人ってさ見たくないものからは目を背くことはできるけどそれも永遠じゃないんだよね」から、傷だらけなのに気付くほど。
だから、「なぜ俺はアイスクリームが殺されたと認識したんだ?」という疑問に対して、先延ばしする展開は予測出来なくもないけれども、謎解きもせず先延ばしする展開は意表を突き、驚きと疑問が残される。
本作はミステリーではなくホラーなので、こういう終わり方は成立をしてもいい。
主人公や少女の内面の葛藤や感情をさらに掘り下げたり、五感の描写をさらに深めたり、アイスクリームが人間として認識される理由や事件の背景についてもう少し詳しく説明するとラストの理解が深まるのでは、と考える。
それでも、いじめや助け合いといったテーマが、アイスクリームが殺される奇妙な事件を通じて、現実と非現実の境界が曖昧になるような描写と個性が際立つ主人公と少女のやり取りが生き生きとして、ユーモアとシリアスさが混ざっているところが魅力的なのは間違いない。不謹慎ながら、面白いのだ。
きっと主人公は、教室でクラスメイトが殺されるショッキングな事件を、溶けてべちゃべちゃになっているアイスクリームが発見されたと置き換えて認識することで、精神的ショックを和らげて受け止めたと邪推する。
だから、他の人達は学校の教室で殺人が起きたことに驚きながらも、たくさんあるニュースの一つとして受け入れている。
でも主人公は、アイスクリームと置き換えたため、食べ物のアイスクリームと混同し、さらに分けがわからなくなっているのだろう。
少女が「いや~奇妙だよね~アイスクリームが人と同じ扱いを受けてるなんてね~」と発言しているところのアイスクリームは、主人公自身が置き換えているだけで、少女は別な言い方をしているのかもしれない。「クラスの男子たち」「あいつら」みたいに。
「人ってさ見たくないものからは目を背くことはできるけどそれも永遠じゃないんだよね」
主人公に投げかけられた彼女のセリフは、視覚だけでなく聴覚も同じなのだと推測する。
「聞きたくないものから耳を背ける事は出来ても、永遠じゃない」
アイスクリームと置き換えて聞くことはできても、永遠じゃない。
二人でアイスを食べ終わった頃には、なぜ主人公がアイスクリームが殺されたと認識したのか、その答えが出ているかもしれない。
ちなみに、バニラ味とチョコミント味の二味にあったのは、染めていた髪の色を示していたのかしらん。
そんなふうに思いながら読みました。
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