悪魔に差し出すは私の一番大事な気持ち

悪魔に差し出すは私の一番大事な気持ち

作者 竹

https://kakuyomu.jp/works/16818023212940073394


 女子高に通う高校一年生の橘心は二年生の先輩に片思いをしている。ある日出会った悪魔と契約し、いちばん大切な気持ちと引き換えに先輩との関係を深めていくが、好きな気持ちをなくし、告白されても断ってしまう話。


 誤字脱字、文章の書き方等は気にしない。

 ホラー。

 大切なものは、なくさないようにしよう。

 代わりなどないのだから。


 主人公は、女子高に通う一年生、橘心。一人称、私で書かれた文体。ラストの視点は、妖怪のような生物。自分語りの実況中継で綴られている。


 それぞれの思いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプの中心軌道に沿って書かれている。

 主人公の橘心は女子高に通う高校一年生で、二年生の先輩に恋をしている。ある日、帰り道で妖怪のような生物に出会い、願いを叶える代わりに「一番大切な気持ち」を代償に求められる。「僕がほしい代償は、君が考えてるほどそんなに重くない。願いはゆっくりと着実に叶えられる。その代わりに、僕が求める代償は、君の一番大切な気持ちをゆっくり、ゆっくりと貰いたい。でも何を奪われているのか君は、完全に奪ばわれるまで気付けない」

 心は迷わず契約し、先輩との関係が徐々に深まるが、次第に自分の中から何かが抜けていく感覚に気づく。最終的に先輩から告白されるも、心は先輩を友達としか見れなくなり、告白を断ってしまう。悪魔との契約により、心の「一番大切な気持ち」が奪われてしまったのだ。


 私の名前は橘心、女子高に通う高校一年生からはじまる謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どのような結末を迎えるのか気になる。

 主人公のモノローグのような書き出し。

 導入部分なので、客観的な視点で書かれている。

 遠景で名前と女子高に通う一年生だと示し、近景で、二年生の優しい先輩が好きだと説明し、心情ではただの後輩としか見られていないようで「少し複雑な気持ち」と感情を吐露する。そうなんだと読み手は納得し、共感していく。


 女子高に通う主人公は高校一年生。これだけで、特別感がある。

 そんな彼女は先輩が好きだけど、「ただの後輩としか見られていないようで、少し複雑な気持ちです。でもこの先輩の後輩という立場にいられるなら、それでいいかなと、思っていた」素直になれず行動にもできないところから、人間味を感じる。同性を好きになったところに、さらに恋の成就の困難さがあるだろう。誰にもいえなず、孤独で思い悩んでいるところに、読み手は共感するだろう。


 現れる妖怪のような悪魔。この描写がいい。「なんとゆうか、猫のようで犬のような、それでいて少し鳥みたい。そこには妖怪のような珍妙な生物が居ました。ですがそんな外見は、よくわからない生物が、日本語を喋っているということと比べれば、あまり気になりません。いや、やっぱり気にならないは嘘かもしれない……」

 四つ足で羽があるのだろう。

 キメラのような外見の生物が日本語を話していることにあまり気にならない、としながら、「いや、やっぱり気にならないは嘘かもしれない……」一人ツッコミをしているのは面白い。

 すでに冷静さを欠いている。話しかけられたときから妖怪の術中にハマっていたのかもしれない。

 

 長い文にならないよう五行ほどで改行し、一文も句読点を用いて、長くならないようにしている。短文と長文をつかって、感情を揺さぶっている。ところどころ口語的でよみやすく、地の文を挟むような会話文からは、登場人物の性格が感じれる。

 先輩とは対象的に冷めていく感じが出ているのもいい。

 心の内面や感情、揺れ動きが丁寧に描かれていて、共感しやすい。

 また、妖怪とのやり取りがリアルに描かれ、読者を引き込んでいる。

 妖怪との契約という、ファンタジー要素がスリルがある。先輩との関係の変化が自然に描かれており、物語の進行がスムーズ。

 五感の描写では、主に視覚や聴覚、触覚が用いられている。視覚的刺激では妖怪のような生物の外見や、先輩の表情、学校の風景などが詳細に描かれ、聴覚では生物の声や先輩の声、学校の音など。触覚は、先輩とのスキンシップや、心の感覚が描かれていた。


 主人公である心の弱みは、先輩に対する強い恋心を持っているが、その気持ちに対して非常に依存していること。自分の気持ちを優先しすぎて、代償について深く考えずに契約してしまう。

 なぜ、そこまで警戒もなく、怪しげな相手のいうことを信じてしまうのだろう。

 すべては先輩に対する恋心ゆえのこと。それが、彼女にとっていちばん大切な気持ち。

 主人公は、そのことに気づかないのか。

 恋は盲目という。

 普段なら気付けることも、誰かを好きになっている状態では冷静さを欠いてしまうのだろう。


 先輩との接触が増えていくので、先輩の匂いや一緒に食事するなどして嗅覚や触覚の描写も加えたり、代償の具体的な影響をもう少しくわしく描いて緊張感を高めたり、心の内面描写をさらに深めて葛藤や変化をよりはっきりさせてくれたら、一番大切な気持ちを奪われる恐怖が、さらに伝わるのではと想像する。

 それでも、主人公がどんどん冷めていき、先輩が積極的になっていく流れは上手く、先輩が可哀想に思えてしまった。

 悪魔が次のターゲットに先輩を選んでいるのだけれども、主人公はこのあと、どうなってしまうのだろう。

 もう、恋すらしなくなってしまうのかしらん。

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