桜と僕と、ドッペルゲンガー

桜と僕と、ドッペルゲンガー

作者 咲翔

https://kakuyomu.jp/works/16818093075711594708


 十七歳の高校生、坂﨑桜斗は花見の下見に来た公園で自分そっくりのドッペルゲンガーに会い、ドッペルゲンガーについてははぐらかされて別れ、家路につく話。


 SF(すこしふしぎ)ファンタジー。

 コントみたいなやり取りが面白い。


 主人公は、バレーボール部に所属している十七歳の高校生、坂﨑桜斗。一人称、僕で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。


 それぞれの人物の想いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプの中心軌道に沿って書かれている。

 主人公の高校生、坂﨑桜斗は、家族のお花見の下見に訪れた公園で、桜の木の影から現れた自分そっくりのドッペルゲンガーと出会う。桜斗はドッペルゲンガーと会話を交わしながら、自分が死ぬ前兆ではないかと不安になるが、ドッペルゲンガーはそのことについてはぐらかす。最終的に、桜斗はドッペルゲンガーと別れ、桜の木の精だったりしてと思いつつ、家路につく。


 ドッペルゲンガーの謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どんな結末を迎えるのか気になる。

 書き出しは、説明からはじまっている。

 遠景でドッペルゲンガーを示し、近景でどういうものなのかを説明し、心情で、主人公は一緒に花見をしていると告げる。

 導入部分の客観的視点による説明を経て、本編の主観がはじまることで、読者を誘っていく書き方が、無駄がなくて実に上手い。

 

 主人公は十七歳、バレーボール部所属。どこにでもいる平凡な男子高校生は、母に頼まれて来週末の家族でのお花見の下見のために、お花見シーズンになると混み合う桜の名所でもある、近所の大きな公園「さくら広場」に来ている。

 きれいな青空、時折吹く暖かな春風。お花見をするには文句なしのシチュエーションだと思うところは人間味を感じるし、ドッペルゲンガーを前にしてどうしたものかという状況、おまけに持ってきた折りたたみのアウトドア用チェアは、もう一人の自分に深く腰掛け足を組まれている。実に可愛そうな気がするところに、読み手としても共感していく。


 長い文にならないよう、四行ほどで改行し、一文も長くならないよう句読点を用いている。 桜斗とドッペルゲンガーの会話が中心で、テンポよく進む。ときに口語的で、間を挟む会話からは、登場人物の性格が感じられ、動きで心情を描いている。桜斗のツッコミやドッペルゲンガーの天然ボケがユーモラスに描かれているところが実に良く、二人のやり取りは面白く、テンポよく進むので読みやすい。

 五感の描写はシンプルで、読者がイメージしやすい。視覚では、桜の花びらや青空、半透明のドッペルゲンガーなどが描写されている。聴覚では、桜斗とドッペルゲンガーの会話、風の音などが感じられる。触覚は、桜斗がドッペルゲンガーに触れようとするが触れられない感覚が描写されている。


 主人公の弱みは、ドッペルゲンガーと出会うことで、自分の死の前兆ではないかと不安になること。ドッペルゲンガーの存在やその言動に対して混乱し、どう対処すればいいのか分からないことがあげられる。

 主人公に限らず、同じ状況に遭遇したら、誰もが不安になり、同対処すればいいか悩むだろう。

 そんな状況に際し、主人公はどうやって乗り越えていくのか努力の過程を、ユーモラスに描かれているところに、共感しつつ感情移入して読み進めていけるのだろう。


 ホラーっぽい要素はあるし、主人公にとっては面白い状況ではないのだけれども、楽しめてしまうのは、二人の掛け合いがどう読んでもボケとツッコミのコントだから。

 頭を叩こうとしたら透けてしまい、さらに加速していく。

 対処方法を検索して調べ、やっぱりドッペルゲンガーかと突きつけても、「さあね。それに僕は肯定したわけじゃないさ。『かもね』って言ったし!」と返し、二度会うと死ぬのかとつぶやけば「そうかもね」と肩を揺する相手。

 テンポと勢いが実にいい。

 やり取りから、ドッペルゲンガーだという疑いが濃厚になって「なんかキミ、面白いな」「キミも、十分面白いよ」二人は仲良くなり、

「じゃあそろそろ、僕は帰るよ。今日は下見に来ただけだし」「じゃあ僕も帰ろうかな」となる。

 別れるときも、「うん、またね」「いや、またねじゃないから」

「え、なんで!?」「『また』会っちゃったら、僕、死ぬから」「じゃあ今生の別れか」「なんか嫌だな、その言い方」のやり取りも面白い。

 もう一人の自分はドッペルゲンガーだとなって、桜の花びらが数枚通り過ぎて眼の前から消えるのを見て、「桜の木の精、だったりして」という意外性がとてもいい。

 予想外の展開に驚かされる。

 実際はどうなのかわからないけれども、桜の木の精が戯れにからかったのかなと思わせる終わりも、いいなと思える読後感だった。

 だからタイトルに「桜と僕と、ドッペルゲンガー」と桜が入っていたのかと納得。

 ドッペルゲンガーというテーマも興味深く、ユーモアとテンポの良さが魅力的だった。

 家族で花見に来たときに、「やぁ」といって出てきそうな気がするような、そんなもう一人の「僕」は面白かった。 

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