メールが1件届いています

メールが1件届いています

作者 文字を打つ軟体動物

https://kakuyomu.jp/works/16818093082145014867


 掲載されなかったUFO目撃者インタビュー記事を読んでから、視線を感じるようになる話。


 ホラー。

 怪しいメールは開かないようにしよう。

 

 三人称、神視点で書かれた文体。メール文であり、会話形式で進行し、インタビューのやり取りが中心。


 それぞれの人物の想いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプの中心軌道に沿って書かれている。

 送信者不明のメールは、「あなた」に読んでもらいたくて送られてきた。

 内容は、週刊██に送られてきたUFOの写真について、インタビューをするために目撃者とコンタクトを取ったときのやり取り。

 目撃者は、近所のスーパーから帰る途中でUFOを見つけ、写真を撮影した。その写真が週刊誌に取り上げられ、インタビューを受けることになる。しかし、UFOの写真は非常に高画質であり、合成の痕跡はないものの、異常に高画質であることが判明。インタビューの最後には、目撃者がUFOではなく「目」を見たのではないかと疑念を抱いたところで終わっている。

 送信者は、読んでから視線を感じはじめているといい、「あなた」も見られていますよねと投げかけるのだった。

 

 From ************@gmail.comの謎と、登場人物に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どんな結末が待っているのか興味が湧く。

 書き出しが上手い。

 遠景でメアドを描き、近景で宛先、心情で「読んでください、お願いします」と続く。メールを送る際に記入する部分を、ただ順番に書いてあるだけなのだけれども、それだけで読み手は共感し、読んでみようかなとなる。

 怪しげなメールが送れてくる現在の状況を考えると、むやみに開いて読もうとせず、迷惑メール指定するかゴミ箱に入れるのが一般的だとは思うけれども、すぐ「◇突撃!現代のUFOコンタクティにインタビュー!」が続くので、読んでしまう。


 内容は、UFOを目撃した人と週刊██の編集の人間とのやり取りと思われるもの。目撃者は、本当のことをいっているのにインタビュー側は疑っているから話を聞いている。そういう状況にある人に対して、読み手は情を持ってしまう。

 また、UFO目撃という稀有な体験は興味をそそられる。

 スーパー帰りに気付いて、「びっくりして……気が動転していたんでしょうか、写真まで撮ってしまって。まぁそのおかげで、ここでインタビューを受けているわけですが(笑)」というところから、なんだか憎めないような人柄で、人間味を感じる。

 インタビュー側も「我々もネタがなくて、ありがたいです(苦笑)」なんて、内情を語っているところからも人間味を感じる。

 こうしたところから、インタビュー記事に興味を持ち、共感していく。


 長い文にせず、だいだい三行くらいで改行していて、一文も句読点を用いて短く、しかも インタビュー形式で進行する文字起こしなので、現実味が感じられ、しかも読みやすい。

FOの写真に対する疑念や不安感が強調されているのが特徴。

 五感の描写に関しては、主に視覚的な表現がみられ、UFO写真の高画質さ、円形の物体に途切れた輪っかがついている描写がされている。また聴覚では、インタビューのやり取り、双方の笑い声、目撃者の緊張した声が感じられる。

 視覚以外の描写が少ないのは、UFO目撃談だからかもしれない。

 それでも他の五感描写が入ると、臨場感が増すと考える。

 

 主人公であるUFO目撃者の弱みは、インタビューに対する緊張感と、UFO写真を撮った後に感じる視線や不安感、最後にUFOではなく「目」を見たのではないかという疑念。

 これらの弱みが、インタビューを進めるごとに現れ、同時に疑念が深まっていくところに、ホラーとしての面白みが増していくところがいい。


 目撃したものがUFOではなく「目」だったのでは、という予想外の展開が意外性と驚きがあってよかった。目撃者の背景や状況をもう少し詳しく描写することで、物語に深みを持たせることができたのではと考えもするけれど、はっきり描きすぎないほうが、ホラーとしては大事な気もするので、このくらいの軽い描写でもいいのかもしれない。


 目撃した「目」というのは、エジプトのホルスの目、あるいはダブルCとして知られるシャネルのロゴマークの形をしていたのかなと想像する。

 それにしても、このメールの発信者は、週刊██の編集部で見つかったファイルにあった未掲載記事をどうやって手に入れたのだろう。

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