倒置法で愛を伝える

倒置法で愛を伝える

作者 ShiotoSato

https://kakuyomu.jp/works/16818093081484996548


 霜山さんが好きな片桐は、友人原田から、彼女が自分に今日を持っていることを知り放課後、彼女と対面。彼女は告白するのも、好きだったのは原田だと知らされる話。


 現代ドラマ。

 コントのような一発ネタ。

 実に面白い。笑ってしまった。


 主人公は男子学生の片桐くん。一人称、僕で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。


 女性神話の中心軌道に沿って描かれている。

 主人公の片桐は、霜山祐衣さんのことが好きである。

 休み時間に友人の原田から、霜山さんが主人公に興味を持っていると聞かされる。彼女は、二人が話しているのをみているようだった。

 放課後、原田の手配で霜山さんと主人公が教室で対面する。霜山さんは主人公に告白する「ずっと前から好きでした……」が、「…………原田くんのことが」実はその告白は原田に向けられたものであった。


 おそらく脈アリだと言われる謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎がどう関わり、どんな結末にたどり着くか気になる。


 主人公は霜山祐衣さんのことが好きだけど、打ち明けられていない。しかも友人原田から、脈ありと教えられ、嬉しいはずだけれども、「内なる興奮を原田に悟られないよう、僕は努めて低い声で伺う」といった振る舞いをみせるところは、カッコつけてる感じもあり、人間味があって面白い。

 主人公のことを、彼女は『面白いよね……片桐くん』『いつも元気だよね……片桐くん』といっているのを聞く。しかも二人が話しているのはいつも下ネタという、むしろ恥ずかしい状況。

 それでも友人の原田は、主人公が彼女が好きなのを知っているので、話をできるようセッティングしてくれたという。実にいい友人を持ったものである、この主人公は。こういうところは羨ましがられる要素であり、読み手は共感していくだろう。

 持つべきは、コミュ力高い友人である。


 全体的に、シンプルで読みやすい。改行は細かくされ、会話が中心で、キャラクターの内面描写が豊富。ときに口語的、登場人物の性格もわかる会話は自然でリアル。一文も短く、短文と長文をつかってリズムとテンポよく書かれていて、感情を揺さぶってくるので、キャラクターの感情がよく伝わる。

  五感の描写は主に視覚で、教室に差し込む月明かり、霜山さんの姿、原田の表情が描かれ、聴覚では霜山さんの告白の言葉、主人公の心臓の鼓動。触覚は主人公の緊張感。


 主人公の弱みは、自分の感情をうまく表現できないこと。他人の気持ちを誤解しやすい、緊張しやすいところだろう。

 ただ、気持ちを誤解するのは違うかもしれない。

 少なくとも、緊張と、うまく表現できないことから、彼女が好きな思いを抱きながら片思いだったのだ。

 そんな主人公のために、原田は得意のコミュ力で力になって和えようとしたのだ。そこに、本作の面白いドラマ、主人公にとっての悲劇が起きたのだ。

 片思いの異性が自分に興味を持っているらしいと聞いて、告白する展開は、読者が共感しやすいシチュエーションだろう。

 はたして二人は結ばれるのか、に興味が注がれる中、主人公の性格や過去の行動、「いつも下ネタしか言ってない気がするんだけど」は、一般的な好きになれる要素とは離れているため、きっとうまくいかないだろうなというのは予測できたかもしれない。

 でも、彼女が好きなのは、「ずっと前から好きでした………………原田くんのことが」という展開は、予想外で思わず笑ってしまった。

 読後、そういえばタイトルに「倒置法で愛を伝える」と書いてあった。主人公ではなく霜山さんのことだったとは。ここでも、意表を突かれて楽しめた。

 最後、「これはもう、原田には怒りしかない。ふざけんな。本当にお前、〇〇〇〇だよな」にはなにが入るのだろう。おそらく下ネタ的な文言だと推測。でなければオチにならないし、伏せ字にしておく理由にもならないだろう。

 無難なところだと、クソ野郎かしらん。


 主人公は、友人の原田に怒りを覚えている。でも原田が霜山さんの気持ちを知っていたかどうかは、本文からはわからない。

 ただし、原田が片桐くんに対して「霜山さんが君に興味を持っている」と伝えたことから、彼が霜山さんの本当の気持ちを知らなかった可能性が高い。

 もし霜山さんの気持ちを知っていたなら、片桐くんに誤解を与えるようなことはしなかっただろう。

 おそらく霜山さんが原田を好きになったのは、彼にコミュ力があったからだと推測。きっと彼女はあまりコミュ力をもっていない。だから持っている原田に惹かれるし、彼と話すために友人の片桐を持ち出したのだ。

 そのうち主人公にも、いいことがありますように。

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