保育士志望の幼馴染が練習とか言って甘やかしてくる
保育士志望の幼馴染が練習とか言って甘やかしてくる
作者 なんでやねん先生
https://kakuyomu.jp/works/16818093074073841639
将来の不安や無気力を感じていた真人は、保育士を目指す真奈の練習に付き合い、価値を認めて盛らことで前向きな気持ちを取り戻す話。
現代ドラマ。
とても素敵な話だった。
主人公は、高校二年生の真人。一人称、俺で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。
絡め取り話法と、女性神話の中心軌道に沿って書かれている。
真人と真奈は幼馴染。中学二年生の頃まではよく話していた。
主人公の真人は、自分の将来に対する不安や無気力感を感じていた。高校二年生の夏休み、真人の元に幼馴染の真奈が訪ねてくる。彼女は保育士を目指しており、勉強を教えてほしいとやってきた。勉強を通じて保育士の練習に付き合う真人は、自分の将来に対する不安や無気力感を真奈に打ち明ける。真奈は真人を励まし、彼の価値を認めることで、真人は少しずつ前向きな気持ちを取り戻す。また明日練習に来てもいいか聞かれて、頬を赤くしながら「……おう」と返事するのだった。
高二の夏休みに幼馴染の真奈が訪ねてきた謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どんな結末に至るのか興味が湧く。
会話文からはじまっている。
遠景で「……よっ」躊躇いがちながらも仲が良かったときに軽妙な挨拶、近景でいつどこに誰が来たのかを描き、心情で、最後にまともに話したのは中学二年生の頃かと、思い出す。
二人の関係がわかり、つぎに現在の状況が描かれている。
「髪も伸び、金に染まって印象は変わっていた」幼馴染と、「出来るだけ俺達が気の置けない親友だった頃を意識しながら、を隠して会話を続ける」主人公。
このあたりに、微妙な関係を感じる。
幼馴染がいて、訪ねてきてくれる。母親に聞いてとはいえ、心配してもらえる存在の主人公。四年ぶりの再会で、彼女は変わった。でも自分はどうだろう、買われていない、むしろ自分に不安を抱いているけれども、仲の良かったアイエを悲しませるようなことはさせたくなくて、あの頃のような関係をとり作ろうとする。
そんな主人公には、憧れも人間味も可哀想な思いも持ちやすく思え、共感を抱く。
幼馴染との再会や、過去の思い出が丁寧に描かれている。感情の揺れ動きが細かく表現されているのが特徴。
長い文にせず改行して一文を短くせず、長文と短文をリズムよく書かれている。会話からは登場人物の性格を感じられる。一人称視点で、主人公の内面描写が豊富で丁寧なところが良い。
五感の描写について、視覚や聴覚、触覚が用いられている。視覚的な刺激では、真奈の金髪やカエルのトートバッグ、部屋の様子など、聴覚は真奈の声や呼吸音、ベッドの軋む音など、触覚は真奈が真人の頭を撫でる感触や、真人がベッドに横たわる感覚が伝わる。
こうした感情の描写から共感しやすく、幼馴染との関係性が温かく描かれているところも読んでいていいし、主人公の成長が感じられる。
主人公の弱みとしては、将来に対する不安や無気力感、自分の価値を見失っている、他人と比較して劣等感を抱いているところがあげられる。
これらの弱みは、幼馴染を前にしたときから現れており、強がって見せていた主人公が、保育士の練習に付き合うことで、弱さ登記あっていくところに面白いドラマを感じる。
「意味わかんね」そう突き放すつもりだったのに、「勉強なんて、したくない」と素直に打ち明けている。
これが親や先生、男友達だとこうはならなかっただろう。
幼馴染の彼女だったから、言えたのだと思う。
真奈のキャラクターをもう少し掘り下げ、彼女の動機や背景をさらに描かれていたら、その辺のこともわかったかもしれない。
五感の描写も、さらに増やせば臨場感をもたせることも出来た気がする。
「ちょっとしか寝ない、ちょっとしかご飯を食べない、家族ともちょっとしか話さない、それが一か月続く。そういう人も居るけど、真人は前までそうじゃなかったでしょ?」
思春期のうつ病という感じ。
親はもちろん、よく知る幼馴染も心配して当然である。
主人公と真奈は、対になっていると考える。
「真奈は小さい時から自分の意見を話す時泣いていた。きっと怖かったんだ。自分の本心を他人に話す事が。だから俺には分かる。真奈は今、心をさらけ出している」
おそらく主人公も同じなのでは、と想像すると、主人公がベッドに横になるとき「せめてもの抵抗と思い真奈に背中を向けた」ところで、真奈にも主人公が怖がっているのがわかったから頭を撫でて落ち着かせてくれたので、「勉強なんて、したくない」といえたのだろう。
きっと、将来の不安や無気力を感じているのは真奈も同じだったのだろう。だから周りの子達と同じように、髪を伸ばしては染めていたのだと推測する。彼女が発した言葉は、彼女自身が欲している言葉でもあるかもしれない。
お互い子供のように泣き続けて、そのまま眠ってしまう展開は、もう少し盛り上がるようなことがあってもよかったのではと、やきもきしてしまう。
でも、主人公の成長は感じられるラストはとても良かった。
高校生のうつ病は、コロナ以降増えたといわれる。
学業ストレスや人間関係の問題、生活習慣の乱れ、周囲との比較による自己評価が下がることなど、複合的に作用し、高校生のうつ病が増加していると考えられる。
そんな時代だからこそ求められる作品といえるし、お互い気持ちをいいあって泣ける環境があることは大切で必要だと、読後改めて感じられた。
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