透明少年少女

透明少年少女

作者 ナナシリア

https://kakuyomu.jp/works/16817330661276889196


 感情で自身の身体が透明になる少年は、同じ能力を持つ処女と出会い、秋祭りに行く。使いすぎて制御できなくなった彼女に最後「ありがとう」と言われる話。


 SF(すこしふしぎ)✕ホラー。

 もしくは現代ファンタジー

 物悲しい。

 自分の感情をコントロールしないと身を滅ぼす教訓が秘められている、かもしれない。


 主人公は、男子学生。一人称、僕で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。


 女性神話の中心軌道に沿って書かれている。

 感情によって自身の体が透明になったり元に戻ったりする特殊な能力を持つ少年は学校に行きたくない強い感情から、その能力を使って家族から姿を消し、街をふらふらと歩き回る。そこで彼は、同じ能力を持つ少女と出会い、彼女と一緒に街を回る。秋祭りに訪れているとき「透明になる能力さ、使いすぎると存在自体が薄くなっていくような感覚になるんだ」「私、もうじきに存在が消えちゃう」「君も、この能力はできるだけ使わないようにしてね」と打ち明けられる。彼女は父親の存在を見つけ手は隠れ、少女は能力を使いすぎて操作がきかなくなり、存在自体が薄くなり「ありがとう」と言い残して消えてしまうのだった。


 ある朝目覚めると身体が薄くなっている謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どんな結末を迎えるのかが気になった。

 書き出しからテンポが良い。

 遠景で、朝身体が薄くなったこと、近景で、朝の辛さを味わっているのでどうでもいい状況を語り、心情で「行きたくない……」とつぶやく。似たような朝を迎えたことがある読者なら、共感するだろう。もちろん、身体が薄くなる現象を体感した人はいないだろうけれども、そこは比喩的に受け取ればいい。

 実際に薄くなるのではなく、学校に居場所がない、みたいなことである。


 主人公は、学校に行きたくない気持ちでいる。いじめられているのか、無視されているのか、勉強についていけないのか。目標も楽しみも見いだせない可愛そうな状況にあるのだろう。

 まだ、消えるのは怖い、生きたいと思うと身体が濃くなる。つまり、辛くなったり生きたいと持ったりするところに、人間味を感じる。それでもやっぱり消えてしまいたいと思い、親をやり過ごそうとするなど子供らしい考えから、共感を抱きやすい。


 全体的に、長い文は使わず三行ほどで改行し、長い一文をたまに見かけるが、句読点を用いて読みやすくし、長文と短文を使ってリズムよく感情を揺さぶっている。

 一人称視点で書かれており、主人公の内面的な葛藤や感情がリアルに描かれてるところがいい。会話文と説明文が巧みに組み合わせながら、ときに口語的で読みやすく、物語がスムーズに進行されている。

 五感の描写では、主に視覚と聴覚を用いている。

 主人公が透明になる様子や、少女との会話などが詳細に描かれているものの、他の感覚、特に触覚や嗅覚、味覚はあまり描かれていない。

 透明になる特殊性から、無味無臭な存在であり、人とのふれあいを避けているからだと推測される。


 主人公の弱みは、自分の感情を制御できないこと。

 能力の発動を不安定にし、結果的には同じ能力を持つ少女が消える原因となる。

 少女の喪失は、少年の未来の姿となる可能性を秘めている。

 

 本作の良さは、主人公の感情とその能力との関係を巧みに描き出し、主人公と少女との関係性も微妙に描かれており、ラストは深い印象を与えているところだろう。

 もう少し彼女のこと、どうして消えてしまったのか、主人公の能力の起源などがもっとあれば、物語をより理解しやすくなったかもしれない。さらに、五感描写をもう少し豊か描かれたなら、と考えるも、透明になるので感情を豊かにしすぎれば希薄さが失われかねないので、塩梅が難しい。

 このくらいの配分がちょうどいいのかもしれない。


 透明同士は互いが見えるのは、面白い発想だった。

「同じ透明少女には少し興味があるけれど、だからと言って彼女と馴れ馴れしくするつもりは現状ない」のあと、名前を尋ねると「その情報、必要ある?」返事が来る。

 彼女は主人公と対をなす存在なので、透明になる理由も考え方も同じなのだ。彼女もそう感じ取ったので、主人公に、自身がもうすぐ消えること、気をつけることを伝えたのだろう。

 彼女が父親を見た後、「私、もう消えちゃう……」といっている。父親を恐れる感情が、透明化を強くさせたのだろう。

 彼女が父親を嫌う理由は何だったのか。暴力でも振るわれたのか、不登校になってから親との関係がこじれたのか。わからないけれども、父親としては、娘がいなくなって心配で探しに来たのかもしれない。

 彼女はこれまで、嫌なことがあると透明化してきた。だから友達がいなかったと思われる。そんな彼女が最後に、自分と同じ納涼を持った主人公に出会えた。

 人は、誰か人の中で生きるから人間たらしむことができる。主人公と会い、秋祭りに行けて、嬉しかったに違いない。

 一人でも平気かも入れないけれど、一人では笑えないのだ。

 

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