君のために

君のために

作者 学生初心者@NIT所属

https://kakuyomu.jp/works/16818093079004355329


 水アレルギー(水蕁麻疹)を持つ少女香澄と、彼女を支えようと医者となった少年の成長と絆を描いた話。 


 現代ドラマ。

 いい話。

 知らないことを知ろうとする行動が、世界を良くしていくことにつながるのかもしれない。そんなふうに思える。 


 冒頭は主人公、香澄の一人称、私で書かれた文体。本編の主人公は男性。一人称、俺で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。

 途中から三人称の神視点、もしくは香澄視点で書かれ、後半以降は少年視点で書かれている。

 現在→過去→未来の順に書かれている。

 

 女性神話と、それぞれの人物の想いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプの中心軌道に沿って書かれている。

 主人公の少年は小学校に入学したとき不思議な少女、香澄と出会う。体育の授業では必ず日陰にいて、昼休みに外に出ることもない。運動会にも出場しない彼女をクラスメートはだれも理解をすることが出来ず、関わらなくなっていったが、主人公は彼女を知りたくて根気強く関わっていく。少女の病気、水蕁麻疹を理解し、彼女のために勉強を頑張るも倒れてしまう。彼女に心配され、自身の身体のことをも考えて生活するようになる。

「遠い大学に通うから、寮暮らしをすることになる。だから、しばらく会えない。俺は、香澄と関係を終わらせたくない。いや、進めたい。しばらくは遠距離にはなってしまうけれど、付き合ってもらえますか?」と告白し、彼女はもちろんと応えた。

 最終的に医学部に進学。大学での生活は大変だったが、彼は水アレルギーの症状を緩和する方法を見つけ、専門医となり皮膚科のクリニックを開業。妻となった彼女と幸せな生活を送るのだった。


 生きるために必要な水が嫌いで避けなければならない謎と、主人公におこる様々の出来事の謎が、どう関わり、どんな結末を迎えるのかが気になる。

 

 一人称と三人称が混ざった文体に、主人公の少年に共感するのに時間がかかる。

 おそらく、一人称の文体は幼い少年少女を表し、三人称では二人が成長したことを表現していると考える。

 また少年と少女、交互に描いているのは、本作品の主人公は二人、ということを示しているからと推測。

 主な主人公は、おそらく少年。

 だけれども、少女でもある。


 冒頭の書き出しでは、遠景で水蕁麻疹の少女である香澄の独白が一般論を交えて語られ、近景で小学校入学時に出会った少女のこと、彼とクラスメイトが理解できずかかわらなくなっていったことを描き、心情で「けれども、俺は根気強く関わっていこうとしていた」と打ち明ける。

 

 二人は小学生である。純真さや熱意を持っている。

 彼女は水アレルギーといわれる水蕁麻疹の病気で、治療法もないこの病気は普通の生活を送ることを不可能とし、いじめがつづいて不登校となってしまう可愛そうな状況であることが書かれている。

 そんな彼女に毎日会いに行く少年の行動や、彼女の日常の大変さを知って、自分には耐えられないし学校でいじめを受けながら勉強を頑張っていた彼女に勝てないと思い、なにも出来ない自分を恨みそうになるなど、少年からは人間味を感じる。

 こうしたところから、読み手は共感するだろう。


 文体はシンプルで読みやすい。長くならないよう、五行で改行し、長い文にならないよう句読点を用い、会話を挟んでいる。自然な会話で、登場人物の性格を感じられるようになっている。物語の進行がスムーズで、登場人物の成長や関係性の変化が丁寧に描かれているところはよかった。

 五感の描写では、少女の涙や少年のやつれた姿など、感情を視覚的に描写している。触覚では、水に触れることによる激痛や風呂の地獄のような時間など、触覚的苦痛が強調されている。

 視覚による感情描写が豊かだから、読み手に共感を呼び起こすところがいい。


 主人公の弱みとして、少年は自分の無力さを感じ、彼女のために何もできないことに悩む。また、彼女のために無理をして倒れてしまうこともある。

 無力さがあるから、彼女のためにできることはなんだろうと行動に移すところにドラマが生まれていく。

 子供の自分は、なにも出来ない。

 でも、なにか力になりたい。

 その思いが、毎日関わりを持つよう家を訪ね、病気のことや彼女の辛さを知り、勉強に励むも倒れてしまう。倒れる辛さよりも、彼女がこれまでもこれからも、毎日受けている苦しみに比べたら大したことはないと思って、励み続けたのだろう。


 医学的な知識を取り入れたリアリティのあるストーリー展開、少女と少年の絆が強く描かれて感動的な作品になっているところは良かった。

「そして、告白もする」はなくても良かったのでは、と思える。

 主人公である少年の目標、性格や価値観、過去にどのような行動を取ったか、直面している問題や葛藤を描写してきたので、読者は主人公が次にどんな行動を取るのか予測しやすく、彼女に思いを伝えるのかどうするのか、気になって読んでいたと思う。

 告白前に「告白もする」とあって、そうなんだという気持ちで受け止めて読んだ感がある。

 ここの「告白もする」というのは、きっと「遠い大学に通うから、寮暮らしをすることになる。だから、しばらく会えない」が告白の内容だったのだと想像する。

 それだけではなくて、「俺は、香澄と関係を終わらせたくない。いや、進めたい。しばらくは遠距離にはなってしまうけれど、付き合ってもらえますか?」交際の宣言もする流れだったと思う。

 ない方が、盛り上がったのではと邪推する。

 

「水アレルギーの症状を緩和する方法を見つけ無事に博士号も取り専門医となった」ところは、意外性をもって良かったねと思えた。

 感動的で心温まる物語だった。登場人物の成長や絆、医学関係や大学にどう通ったのかという流れも丁寧に描かれていて、作品の印象が良い。

 ただちょっと読みにくかったかなとつぶやきながら読後タイトルを見て、相手のために努力を惜しんではいけないということを、作品を持って伝えているのかもしれないと思うことにした。


 水アレルギー(水蕁麻疹)とは、水に触れると皮膚に炎症が起こり、腫れたり湿疹が出たりするアレルギー。水そのものにアレルギー反応を起こすのではなく、水に含まれるイオンや水の温度、pHなどの物理的な刺激によって症状が現れる。汗や涙にも肌が反応することがある。

 水アレルギー(水蕁麻疹)に対しては、完全な治療法はないが、症状を管理し、生活の質を向上させるための方法がいくつか存在する。


・抗ヒスタミン薬の使用

 鎮静作用の少ない第2世代のH1抗ヒスタミン薬(例:ザイザル)を予防的に服用することが推奨されている。これにより、症状の発生を抑制。


・ステロイド外用薬

 炎症やかゆみが強い場合、ステロイド外用薬の使用で症状を軽減できることがある。


・生活習慣の調整

 水との接触を最小限に抑えるなど、日常生活での注意が必要です。症状が出やすい時間帯を避けるなどの工夫も効果的。


・冷却

 炎症の範囲が狭い場合、冷やしたガーゼを当てることで症状を和らげる。


・医師の指導

 水蕁麻疹は非常に稀な疾患であるため、症状が重篤な場合には専門医の指導の下で適切な治療を受けることが重要。


 これらの対処法を組み合わせることで、症状を効果的に管理し、生活の質を向上させることが可能。また、医学の進歩により、将来的にはより効果的な治療法が開発される可能性もある。

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