描写への追求
描写への追求
作者 飴。
https://kakuyomu.jp/works/16818093081753040189
生粋のホラー好きの祐介は、クラスの一軍に誘われて心霊スポットを訪れるも、仲間の裏切りで橋を落とされる。後日、有名ホラー作家の桜雅之が同じ橋から飛び降りたと報じられる話。
ホラー。
内面描写がリアルで、物語の展開がスリリングだった。
主人公は、一人称、僕で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。自分語りの実況中継で綴られている。
女性神話の中心軌道に沿って書かれている。
主人公の裕介は、有名ホラー作家の桜雅之。
クラスの"一軍"に誘われた主人公の裕介は、心霊スポットである橋に行くことになる。生粋のホラー好きの裕介は、霊の噂を知っていたが、実際に霊を目撃し、恐怖に包まれる。橋を渡りきれば助かる噂を信じて進むも、仲間に裏切られ橋から落とされる。
後日、ニュースで有名ホラー作家の桜雅之が同じ橋から飛び降りたと報じられ、彼の未完成の小説が発見される。
心霊スポットに誘われる謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どんな関わりをみせ、どのような結末を迎えるのか気になる。
書き出しから誘っている。
遠景で誘われるセリフを描き、近景で、どのような相手からの誘いだったのかが続き、心情で「そんなの何かされるに決まっているじゃないか。断りたいとも思ったが、友人に伝えておいた僕の空いている日程が割れていたらしく、断るなんてことをすれば何をされるか分からない。絶望的な状況だ」と語られいる。
主人公はクラスの一軍とは無縁の存在、ヒエラルキーなら二軍以下なのだ。そんな彼が、一軍連中に誘われ、断れない状況。実に可愛そう。嫌がっている心境かは人間味を感じつつ、そんな彼は、生粋のホラー好き。だから彼らに誘われるのは嫌だとしながらも、「頬のゆるみが止まらなかった」と好きなことに対して顔に出ている。こんなところも人間味を感じる。非常に魅力的で、共感する。
長い文にならないよう、四行ほどで改行している。一文は短く句読点をも打ちいて区切っている。 短い会話文でテンポよく、読みやすいのがいい。一人称視点で進行し、主人公の内面描写が豊富、とくにリアルな恐怖感を引き立てる描写が多い。
恐怖感を引き立てる五感の描写が秀逸で、視覚的な刺激では、夕日の落ちる黄金色の空、厚手の白いコートを着た霊の姿などが描かれ、聴覚においていは、夜行性動物の鳴き声や仲間の声、触覚では、冷や汗や震える手など、読み手に多い起こさせ追体験させてくる。
主人公の弱みは、社交的ではなく、クラスの"一軍"に対する不安と恐怖。ホラー好きだが、実際の心霊体験には弱いこと。
そもそも彼は、「しかし、どこまで僕のことを知っているのだろうか、下手なホラー作品よりもよっぽど恐ろしい」とあるように、有名ホラー作家であることを隠しているフシがある。
自身が一軍ではないことも理解もしているし、関わり合いたいとも思っていない。
でも、逃げられない状況となり、自分が好きな心霊スポットに誘われ、詳しい人がいないからと頼りにされて、引き受けてしまう。
主人公の性格や価値観、直面している問題や葛藤から、断りきれずついていき、自分が先に橋を渡ることも予想しやすかった。
十分警戒したものの、彼らに落とされる展開は、予想できた人もいたかもしれない。
一軍の彼らが、用もないのに自分たち以下の人間に声をかけ、誘うはずがない。
理由はわからないが、気に食わないことでもあったのだろう。
はじめから突き落とすつもりで、主人公を誘ったのだろう。遺体がみつかっても怪しまれないよう、心霊スポットを使ったのだろう。
ただ、一軍の彼らが、主人公が有名ホラー作家だということを知っていたのかまではわからない。
知っていたと仮定したほうが、彼らの動機もみえてくる。
高校生で一軍以下の祐介が有名ホラー作家なんて許せない、そんなに好きなら心霊スポットに誘い出して殺してしまえば、犯人を心霊のせいにできると考えたのかもしれない。
実際のところ、どうだったのかわからない。クラスメイトとの関係性や背景をもう少し詳しく描かれていれば、更に推測できたかもしれない。
読後、タイトルを読みながら、主人公はホラー作品の描写の追求のために、一軍の誘いに乗ってしまい、悲劇に巻き込まれてしまったのだと思った。描写の追求というなら、五感をフルに使った描写を加えたら、さらに恐怖感を増す作品となるかもしれない。
ところで、彼の未完の小説は、どんな内容だったのだろう。
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