女子校の王子は姫になりたい

女子校の王子は姫になりたい

作者 橘スミレ

https://kakuyomu.jp/works/16818093081557455249


 女子校の王子と呼ばれている主人公は、河嶋さんから形だけでも付き合っていることにしてほしいと頼まれ引き受けるも、実はお姫様になりたいと打ち明け役割を交代、河嶋さんに告白する話。


 百合もの。

 自己受容と他人への理解という普遍的なテーマを描いているところがいい。

 ポンデリング食べたい。


 主人公は、女子校で「王子」と呼ばれている女子高生。一人称、私で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。


 それぞれの人物の想いを知りながらむずバレない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプの中心軌道に沿って書かれている。

 女子校の「王子」と呼ばれる主人公は、姫になりたい願望を抱いている。「可愛い」ものが大好きで、猫や犬のぬいぐるみ、甘いスイーツ、フリルとリボンがたっぷりのお洋服などに心を引かれる。でも、学校では剣道部で成績を収めていることから「王子」としての評価を受けていた。

 主人公はクラスメイトの河嶋さんとの関係に悩んでいる。河嶋さんは「お姫様」と呼ぶに相応しい人物で、主人公が彼女を手伝うと、周囲はそれを「王子が姫を助けた」と解釈し、騒ぎ立てる。主人公はこの状況に困りつつも、自分が姫になりたい願望を隠し、「王子」を演じ続ける。

 ある日、河嶋さんから「形だけでいいから付き合っているってことにしてくれない?」というメールが来る。主人公は同意し、二人は恋人のフリをすることになるがその後、主人公は王子としての役割に疲れ、本当は姫になりたい願望を河嶋さんに打ち明ける。河嶋さんはこれを受け入れ、二人は「役割交換」をすることに。河嶋さんが「王子」に、主人公が「姫」になる。新たな関係に戸惑いつつも、河嶋さんの強さと肯定に心を動かされ、彼女に「好き」と告白するのだった。


 可愛いものが好きという謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どのように関わり、どんな結末を迎えるのか興味がある。


 冒頭の導入で、主人公が好きな可愛いもの客観的に状況説明されている。そこでも、遠景でまず可愛いが好きと示し、近景で、どんな可愛いものなのか例を出して示し、心情のダメ押しで「全部大好き」と語っている。

 主人公は女子高生で、しかも女子校に通っている。可愛いものが大好きで、「月に一度、可愛く着飾り小さなぬいぐるみと一緒にアフターヌーンティーに行くのを楽しみに生活している」ところは人間味も感じる。そんな彼女は、剣道部で成績をそれなりに収め、王子様扱いされているという、かわいそうな状況にあるところにも共感をしてしまう。

 王子の対比に、お姫様と呼ぶにふさわしい河嶋さんを登場させ、「さすが王子様」「やっぱりイケメンだね」「もうあそこ付き合っちゃえばいいのに」「王子様とお姫様とか最高じゃん」と、二人の関係をラベリングする周囲の声を書きながら、ますますもって主人公の可哀想な状況を演出していくダメ押し感が実にいい。


 主人公の内面的な葛藤を、深く掘り下げることに焦点を当てているのが特徴。

 長い文にならないよう改行をこまめにし、一文を短く、長文と短文を使ってリズムよく書かれている。ときに口語的で読みやすい。

 五感の描写は少ないものの、視覚ではデート時の河嶋さんの服装、触覚では、姫でいたいと打ち明けたときの胃がぐるぐるするところで描かれている。主人公の感情や思考を詳細に描き出すことで、主人公の心情に深く共感できる書き方がされている。 

 

 主人公の弱みは、自分の本当の願望を隠し、他人の期待に応えようとする姿勢。社会の期待に応えようとするあまり、自分自身を見失ってしまう普遍的テーマを象徴にもなっているだろう。

 この弱みにどう対処するのかが、面白いドラマにしているところ。

 本作は、性別や役割についてのステレオタイプを上手く描き出しているのが特徴。主人公の「王子」としての役割と、「姫」になりたいという願望との間での葛藤が、深い共感を呼びおこすところがいい。

 また、河嶋さんのキャラクターは他人の本質を理解し、受け入れる力を持つ「王子」の役割を果たしている。


 どんな女の子も、お姫様になりたい願望を抱いている。たとえ、剣道で活躍して、イケメンに見える子だとしても。

 そんな主人公が「姫」になりたい願望を持つ理由や背景がもう少し掘り下げられていたら、もっと面白くなる予感がした。

 河嶋さんが理解し、受け入れてくれる姿勢がよかった。

 現実は、なかなかそうはいかない。それだけ、他人の本質を尊重することの大切さを、彼女の存在が教えてくれているのだ。

 

 読後タイトルを読みながら、元女子校だったときを思い出す。王子様がいたかまでは思い出せないけれども、男役っぽいような子はいた。だからといって、その子も他の女子となじように、可愛いものが好きだった。

 ラベリングして決めつけるのはよくないし、求められているからと無理して演じる必要もない。自分を受け入れ、他人への理解を大切にすることを思い出させてくれる、そんな作品だった。


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