俺と彼女を繋ぐもの
俺と彼女を繋ぐもの
作者 砂乃一希
https://kakuyomu.jp/works/16818093074768883452
クラス一の美少女である和田恵と付き合っている柴田司は席が隣同士。数カ月後に席替えが行われ、運良くまた隣同士となる話。
文章の書きはじめはひとマスさげる等は気にしない。
現代ドラマ。
これもまた、青春の一ページ。
主人公は、男子学生の柴田司。一人称、俺で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。恋愛ものなので、出会い→深め合い→不安→トラブル→ライバル→別れ→結末の流れに準じている。
女性神話と絡め取り話法の中心軌道に沿って書かれている。
ナンパされていた和田恵さんを、たまたま通りすがった主人公の柴田司が追っ払ったことをきっかけに連絡先を交換し合い、仲良くなった。そんなクラス一の美少女である和田恵と隣の席に座っている。ある日、恵が教科書を忘れたと言って司に机をくっつけてくるが、実は教科書を持っていた。恵は司の隣に座りたかったために嘘をついたのだ。二人は内緒で付き合っており、ノートを使って文通を始める。数ヶ月後、席替えが行われるが、運良くまた隣同士になる。二人の文通は続いていく。
クラス一の美少女の隣に座っている謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どんな結末を見せるのかが興味を引く。
書き出しから、状況を語られている。
遠景で現状を、近景で教室のどこの場所かを描き、心情で(この席は本当いいよなぁ……あんまり先生から当てられないし……昔から運だけは良かったからなぁ……)と語られ、なるほどと読みては共感する。
主人公は高校生なのか、学年はといったことより、クラス一の美少女の隣にいることが大切で、一番伝えたいことなのだろう。
主人公は運が良い。クラス一の美少女と隣の席。これだけで、羨ましがられる要素があり、運がいいことを喜び、楽しい人生を贈るところに人間味を感じる。許可書を忘れた彼女に見せてあげる優しさある。こういうところに共感する。
一人称視点で、主人公の内面の独白が多い。
長い文にならないようこまめに改行し、一文も長くならないよう句読点を用い、ときに口語的で読みやすい。日常の些細な出来事を丁寧に描写し、登場人物の感情や関係性を細かく描いている。
五感の描写について、視覚的刺激は、教室の風景や恵の表情、ノートの文字などが詳細に描かれている。聴覚では、先生の声や教室のざわめきなど、触覚は、ノートを手渡す感触や机をくっつける動作など描かれている。
主人公の弱みは、自分に自信がない、誇れるような取り柄がないと感じているところ。
だから、恵との関係を公にすることに対する不安を感じ、クラス一の美少女と量産型男子高校生という不釣り合いな関係を気にしている。
そういう弱みがあったから、ノートで文通するやり取りが生まれ、二人のやり取りが深まっていくのだ。
そうした、仲良くなっていく努力の過程を描かれているので、読み手は二人を応援したくなり、感情移入していく。
そう思えるのは、学校生活の描写がリアルに書かれていることや、恵の可愛らしさ、司の優しさがよく描かれているから。恋愛の初々しさやドキドキ感が伝わってくるように書かれているのも良かった。
席替えが再び行われるのは、予想外ではあるものの、学校のイベントの一つであるので、意外性はない。ラスト、また二人が隣の席になるのもお約束のようなもので、予測できる。
ただ、離れ離れになるときに、『また近いといいね』と手渡した後、彼女から二人らしき男女が手を繋いでいるイラストと共に『大丈夫、きっと近くになれるよ』と書かれた紙を受け取る展開は、すごくいい。
これまでのやり取りから、彼女ならばそういうことを書くかもしれないと想像はできる。でも、離れ離れになるときにそんなことをされると、胸に迫ってくるところだろう。
読後、タイトルを読みながら文通が二人を繋いだのかとしみじみ思う。
青春の一ページを切り取ったような心温まる物語で、良かった。
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