あ!こんなところに小さな箱があります。可愛いですね。

あ!こんなところに小さな箱があります。可愛いですね。

作者 ねくしあ@カク甲/こえけん準備中!

https://kakuyomu.jp/works/16818093073305143604


 箱を見つけた女子高生はラッピングをほど黒い箱を開けると、中に引き込まれ、飲み込まれてしまう話。


 ホラー。

 外観の綺麗さで誘って狙っているものが世の中にはあるから気をつけなさいと、教えているのかもしれない。


 主人公は、箱。一人称、ワタシで書かれた文体。自分語りの実況中継、ですます調で綴られている。


 それぞれの人物の想いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプの中心軌道に沿って書かれている。

 箱は、誘導したり騙したりして、食べようとしている。

 高校生の少女が学校帰りに見つけた可愛いラッピングの箱に興味を持つ。開けると黒い箱があり、少女が取っ手を引くと、中に引きずり込まれてしまう。箱の中は底のないあたたかい空間。触手がのびて少女を包み込み、最終的には飲み込まれてしまった。


 可愛い箱の謎と、登場人物に起こる出来事の謎が、どう関わり、どんな結末を迎えるのか気になる。


 書き出しから、世界観を感じさせてくれているところがいい。

 遠景で、セリフからなにかを見つけたことを描き、近景で見つけたもの可愛箱で、誰が見つけたのかを描き、心情では、どういう少女なのかくわしく語っていることで、ふむふむなるほどと共感していく。

 

 長い文にならないよう、三行ほどで改行し、一文は句読点を用いて短く、短文と長文をつかってリズムよく感情を揺さぶっている。

 本作の主人公は、人ではなく箱。軽快で親しみやすいですます調で書かれながら、徐々に不気味な雰囲気が漂うように書かれている。

 可愛いものに対する描写が細かく、読者の興味を引くのが特徴。また、少女の心理描写が丁寧に描かれており、彼女の感情の変化がよく伝わる。

 五感の描写では、視覚的刺激は、ピンクを基調にした可愛いラッピング、ハートマークやクマの模様、真っ黒な箱、白い腕の触手などが詳細に描写されている。触覚の刺激は、触手のぬめぬめした感触、聴覚では、少女の呟きや叫び声が描写されている。


 少女は可愛いものに対する興味が強く、それが彼女の弱みとなっている。また、警戒心が薄く、箱に対する好奇心が勝ってしまう点も弱みといえる。

 箱を開けるか否か逡巡し、好奇心が勝れば、一直線で行動していく流れは面白い。

 

 可愛いものに対する描写が細かいところが特徴。少女の心理描写が丁寧で、感情の変化がよく伝わるのもよかった。

- 不気味な雰囲気が徐々に増していく展開も、実に効果的だと思う。

 開ける迷うときは嗅覚や味覚をくわえた描写があると、より没入感が増すのではと考える。

 箱視点で書かれているため、少女の背景や性格について描けないかもしれない。けれど、もう少し詳しく描写されていると、彼女へ感情移入がしやくなり、さらに恐怖を感じたのではと想像する。

 そもそも箱は、彼女をおいしく食べるために現れたと考えられる。

 昨日はなかったのに、少女が通る道に現れているのがその証。

 性格や可愛さから少女をターゲットに決めて、出現したにちがいない。そう考えると、少女の背景や性格を書けたのではと思える。


 開けるか百面相をしてまよっていたとき、「ふぅ、と深呼吸をしてそっと呟きました。『ま、いっか』」とつぶやき、さ寂しげな笑みを浮かべて箱を開けている。

 はたして、彼女の意志で開けようとしたのか。

 箱が持っている、なんらかの魔力的な力によって、理性や自制心を弱めて明けさせたのかもしれない。その後、必死になって開けようとする様子からも、箱に操られてしまっているのではと邪推する。

 

 読後、タイトルの付け方は上手いと思った。作品の内容とも遭っている。なんだろうと思わせて、読ませ、少女は箱に飲み込まれてしまう。まさに少女は、本作を読んだ読者の象徴そのものである。

 可愛いものと不気味な要素がうまく組み合わさった興味深い作品だった。

 見た目に騙されないように、という教訓があるに違いない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る