さいしんのロボット
さいしんのロボット
作者 じゅじゅ/limelight
https://kakuyomu.jp/works/16818093081515348428
自堕落な男が無理やりAIロボットを家事をさせたばかりに反感を買い、壁の内側に引き込まれてしまう話。
疑問符感嘆符のあとはひとマス開ける等は気にしない。
ホラー。
身勝手な生き方は身を滅ぼすという、教訓ある作品。
三人称、自堕落な男視点、神視点で書かれた文体。シンプルで読みやすい。会話が多く、テンポが良い。
それぞれの人物の想いを知りながら、結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプの中心軌道に沿って書かれている。
閑静な住宅街にある新築アパートに住むことになった男は、最新のAIロボットが生活をサポートしてくれるという理由でこの物件を選んだ。男は自堕落な生活を送り、料理や洗濯、整理整頓ができないため、AIロボットに頼り切っていた。しかし、ロボットは料理が得意ではなく、毎日同じ野菜炒めしか作れない。男はロボットに対して不満を募らせ、怒鳴りつける。
ある日、男が酔って帰宅すると、ロボットが異常な行動を始める。壁の内側から機械音が響き、男の腕に冷たい機械の腕が絡みつく。ロボットは男に対して冷淡な態度を取り、自分が他のロボットとは異なることを告げる。男は恐怖に震えながら壁の内側に引き込まれ、部屋は静寂に包まれる。
最後にアパートの大家である老人が、ロボットの扱いに注意するようにと忠告したことをつぶやきながら、次の住人を迎える準備をする。
閑静な住宅街に佇む新築アパートの謎と、登場人物に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どのような結末を迎えるのか興味が湧く。
冒頭の導入部分は、客観的な状況説明からはじまっている。
これからどんな話がはじまるのか、誘う書き出しが良い。
遠景で場所を、近景で更に詳しくどこに誰がアパート契約したのかを描き、心情でそのアパートに契約した理由が書かれることで、読み手は共感していく。
主人公は、自堕落な男。家事が出来ないし、整理整頓も出来ずに、以前のアパートを追い出され、二十代後半で独り身、恋人もいないという可哀想な人物。だからこそ、AIがサポートしてくれるアパートに入りたいと思い、契約したのだ。そういうところに、人間味があるし、共感も得られやすいと考える。
長い文にならないよう五行ほどで改行し、一文を長くしすぎないよう句読点が使われ、短文と長文をつかってリズムよく書かれ、テンポも良い。会話も多く、セリフからは性格がわかり、読みやすい。
サスペンス要素が強く、緊張感があるのが特徴。ロボットの冷淡な態度と男の恐怖が対比されているところがいい。
五感の描写が用いられ、視覚では新築アパートの清潔な部屋や、ロボットの表情の変化、機械の腕が絡みつくシーンが詳細に描かれている。触覚では、冷たい機械の腕が男の腕に絡みつく感覚。聴覚の刺激は、ロボットの機械音や男の怒鳴り声、壁の内側から響く機械音が描写されている。
主人公の弱みは、自堕落な生活を送り、料理や洗濯、整理整頓ができないこと。だからAIロボットに頼り切り、思い通りにいかないことに対して、ロボットに対して不満を募らせる。弱みをもつ自堕落な男と、冷淡なロボットの対比が面白いドラマを生んでいくところが良かった。
ロボットの異常な行動と男との緊張感ある展開、恐怖がうまく描かれているところもいい。壁の内側から響く機械音や、男が引き込まれるシーンは、サスペンスがある。
ただ、途中の展開が急ぎすぎている気がするので、もう少し丁寧に描くと盛り上がるのではと考える。そこに、男の内面描写を増やすと、彼の恐怖や葛藤が更に伝わってくるだろう。
アパートの外観や周囲の環境も、見た目はなんでもない、どこにでもあるようなごく普通のアパートがわかるような詳細な描写をしておいて、実は部屋の中ではこんなことが起きていた、と対比させると、恐怖はさらに募るのではと想像する。
それでも、「入ったばかりのころ、部屋のところどころに機械で使うような細かいネジや導線が散らかっていた」とか、料理は苦手と言いつつ、「慣れた手つきで調理をしていく」ロボットの様子など、少しずつ怪しさを醸し出しているところは、よかった。
大家さんは、ロボットをこき使って反感を抱かれるような人間に部屋を貸しているのかもしれない。これまで、何人の住人が犠牲となっているのだろう。
主人公の男は部屋が空くのを待っていた、とある。入居したとき、両隣の部屋は空いていたのに、実に奇妙である。AIロボットがいるのは、アパート全室ではなく、その部屋だけかもしれない。
そもそも、住人が忽然と消えるのだ。事故物件に思える。
自殺ではないので、夜逃げされたことになっているかもしれない。
変な噂はたたないのだろうか。自堕落な人間だから、交友関係も少なく、近所付き合いもないから気づかれないのだろう。
はたから見ると、AIロボットは、賃貸主だけでなく大家さんからも酷い目にあっているような気がする。こき使われていたAIロボットがかわいそうに思えた。
自堕落な生き方をせず、家事くらいできるようになってもらいたいものである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます