幽霊は僕を見る

幽霊は僕を見る

作者 ヨキリリのソラ

https://kakuyomu.jp/works/16818093077637829275


 公園でぼっちの主人公は、ぼっちの幽霊少女と出会い、一緒に過ごして共感し合う話。


 ファンタジー。

 微笑ましく、オチが良い。


 主人公は、公園に生えている木。一人称、僕で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られながら、主人公の内面的な感情や思考が詳細に描かれている。


 女性神話の中心軌道に沿って書かれている。

 公園で突っ立っている日々を何十年も過ごして孤独な主人公は、幽霊の少女に出会った。寂しいというと彼女は、『私、一緒にいても良いかな?』と提案したので、『いいよ、キミがそうしたいなら』と受け入れた。以来二人は一緒に過ごし、お互いの存在を受け入れ、共感し合う。物語は、少女が自分の年齢『私、今年で――歳だよ』と明かす『うわ、僕より年上じゃん』『えっ、ホントに?! じゃあ、私の方がお姉さんだね』と話し、今度はなにを教えてくれるのかなと尋ねると、『まぁ、そのうち考えるよ』と彼女は返事。これはなくなりそうだなと嬉々とした内心のまま思うのだった。


 声をかけられる謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どんな結末を迎えるのか気になる。

 書き出しがテンポよくていい。

 遠景で声をかけられたセリフ、近景で、いつどこで誰がを描き、心情で『ん? 何かな?』と答える。流れるような感じで、読ませていきながら共感していく。


 主人公は、夏、灼熱の太陽が照り付ける公園でぼっちでいるので、可愛そうだなと感じる。それでも少女に声をかけられる。おじさんは、見ず知らずの子供に、しかも女の子に声をかけられることはんて、よほどの理由がない限りない状況。それだけで特別さを感じる。

また、紳士を気取って問い返すなど、人間ではないけれども人間味を感じるところなどから、共感する。

 

 主人公の木と、幽霊少女の微妙な関係性を巧みに描いているのが特徴。孤独と友情、存在と非存在といったテーマを扱っている。

 長い文にならないよう四行くらいで改行し、一文を短く、短文と長文を上手く組み合わせながらテンポよく書いて、読み手の感情を揺さぶってくる。登場人物の性格を感じさせつつ自然な会話を挟みながら、ときに口語的で、読みやすい。会話が多く、キャラクター間の関係性や感情を表現されているところもいい。

 五感の描写では、主に視覚と聴覚が描かれている。

 公園の風景や少女の表情、二人の会話が詳細に描かれています。しかし、他の感覚はあまり描かれていないのは、主人公は木で動けないのと、少女が幽霊だからだだろう。


 主人公の最大の弱点は孤独。

 彼は自分がぼっちであることを認め、それに対する寂しさを感じている。

 弱みと同時に、主人公が何者なのかという点が謎として書かれているのも、面白いドラマを生んでいる所以だろう。


 登場人物の目的、性格や価値観、過去にどのような行動を取ったか、直面している問題や葛藤が描写されることで、読者は主人公が何者で、どんな行動を取るのか、予測しやすくなっていく。

 はじめはどちらも、普通の人間、おじさんと少女という関係だと思わせておいて、最初に少女が幽霊だと明かされる。

 一つ明かされたことで、主人公の謎も開示「この公園で突っ立っている日々を過ごしてからもう何十年にもなる」ひょっとしたらと思わせてからの少女のセリフ『ねぇ、ボッチのおじさんは幽霊なの?』の答えで、『いいや、僕は幽霊じゃないよ。死んでないから』と明かされる。

 主人公は幽霊ではない、でも公園で突っ立っている日々を過ごしている。

『ここから動けるけど、誰にも見てもらえない私。誰の目にも入るけど、動かず、誰にも話し掛けないおじさん。私たちに、大した違いなんてないよ』

 はたして主人公は何者なのか。

 読み手はあれこれ考えて、少女の実年齢は主人公より上だと明かされる。

 少女は、ひょっとすると公園ができる前に事故でなくなったのかもしれない、と思いながら、寂しかった主人公に楽しみが出来て終りを迎えるのだ。

 結局、何者なのだろうという疑問が残るけれども、ラストで「こりゃ、長くなりそうだな。嬉々とした内心のまま、僕はそんなことを思った」と締めくくられているところで、主人公は公園に生えている一本の木だろうと思いつく。

 オチは作中にあるものを使うので、嬉々と木々をかけているのだと考えた。

 そう考えると、非常に納得がいくし、微笑ましく思えた。

 

 読み終えてタイトルを見ながら、話しかけていたのはいつも幽霊の少女だったことを思い出す。読後は素敵で感動的である。




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