俺らの夏

俺らの夏

作者 雪蘭

https://kakuyomu.jp/works/16818093081926892412


 金子が所属する野球チームが地区大会で敗退し、甲子園出場の夢が終わる。だが、グランドでチームメイトと再会し、支えてくれることを知り友情が復活する話。


 文書のはじめはひとマス下げるは気にしない。

 現代ドラマ。

 若さと友情、彼らの夏はまだ終わらない。そんな気にさせる、素敵なお話だった。

 

 主人公は、男子高校生の野球部員、ピッチャーの金子。一人称、俺で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。

 

 絡め取り話法の中心軌道に沿って書かれている。

 主人公と彼の野球チームが地区大会で敗退し、甲子園出場の夢が終わる。主人公は試合の結果に責任を感じ、チームメイトとのコミュニケーションを避けていた。数日後、彼は学校のグラウンドでチームメイトたちと再会、彼らがまだ一緒にいて、彼を支えてくれることを知る。この再会は主人公にとって感情的な瞬間であり、彼は涙を流しながら感謝の言葉を述べ、笑い合う。

 彼らの夏、友情はまだはじまったばかりだった。


 響き渡るサイレンの謎と、主人公に起こる様々の出来事の謎が、どうか代わり、どんな結末を迎えるのか気になる。

 遠景でサイレンの音を描き、近景で、状況を説明、心情で、自分の投げたストレートのせいで、地区大会敗退が決まったと示され、深く共感する。

 

 長い文にしないよう五行くらいで改行し、動きで示して読みがいのある文章にしている。句読点を入れて、一文を長過ぎないよにし、短文と長文をつかってリズムをつくり、感情を揺さぶっている。

 ときに口語的で現実味があり、会話文はそれぞれの性格がよく出ていて、読みやすい。

 五感を駆使した描写が豊富で、聴覚と視覚の描写が印象的。

 例えば、試合の結果を告げるサイレンの音、チームメイトの笑い声、泣き声などが具体的に描かれています。また、グラウンドの景色やチームメイトの表情など、視覚的な描写も「チームメイト達が人差し指を立てながら歓喜の笑顔と共に駆け寄っていく姿が、スローモーションに見えた」「俺のチームメイトは皆、隠すこともままならずに大粒の涙を流し、それらと汗が混ざってグラウンドに濃いシミを作っていく」など、細かく描かれており、読者に物語の場面を想像させてくれる。


 主人公の弱みは、自己責任感とコミュニケーションの難しさ。

 試合の結果に責任を感じ、その結果、チームメイトとのコミュニケーションを避けてしまう。この弱さがあるから、彼は最終的には克服し、チームメイトに感謝の気持ちを伝える展開につながる。

 再会し、感情的な涙を流すことで、互いに本音を語り合っていく展開が実にいい。

 物語の良いところは、感情的な描写とキャラクターの成長だろう。

 主人公が試合の結果に責任を感じ、それを克服する過程は、強い共感を引き出してくれる。

 また、チームメイトたちの絆と支えが、主人公の成長を助ける様子も感動的。はたからみていると、恥ずかしいような臭いことを語り合っているのだけれども、そんな様子を臆面もなくまっすぐに描いているところが、読んでいても清々しく、すばらしい。

 彼らの友情を強く感じられる。

 欲をいえば、主人公が自己責任感から立ち直るまでの過程がもう少し詳しく描かれると、より深みが強まるのではと考える。

 また、他のチームメイトたちの視点や感情もよりわかりやすく描かれると、物語がより豊かになる気もする。

 それでも全体的にはすでに感動的で、読み手の心を捉えた作品。

 甲子園出場の夢は敵わなかったけれど、かけがえのない友情を自分たちで見つけてにできたことは素晴らしく、読後がよかった。

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