たった一度の夏が終わる
たった一度の夏が終わる
作者 ナナシリア
https://kakuyomu.jp/works/16817330663182267409
夏に彼女を亡くしたことを受け入れられない男の話。
現代ドラマ。
思いが強いほど、いい思い出も悲しい思い出も残るもの。
たった一度の人生を生きていることに、気づかせてくれる。
主人公は、男性。一人称、俺で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。現在、過去、未来の順に書かれている。
それぞれの人物の思いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感する中心軌道に沿って書かれている。
主人公が彼女に告白したのは、好きで付き合いたかったから。
二人は付き合うも、告白したときから病気でもうじき死ぬことが彼女から伝えられたのは八月一日。彼女の願いは、彼が彼女を幸せにして、その夏を最高のものにすること。「あと、一カ月あるから――君が私を幸せに死なせてよね」といわれ、精一杯幸せにすると約束する。
星を見、海へ行き、遊園地、ひまわりの花を見て、水族館、夏の終わりには一緒に花火を見て多くの経験を共有する。
八月三十一日、病院にて、彼女は本当は死にたくない、もっと生きたいといい、主人公も君といきたいと叫ぶ。
目を覚ますと彼女の姿は見当たらず、彼女が亡くなったことを知らせるメモ書きが机の上に残されていた。思い出したくもない彼女の死。あの日で、主人公のたった一度の夏は終わりを告げ、彼女の死を受け入れることができないのだった。
あの夏は、俺にとって最後の夏だったという謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どんな結末を迎えるのか気になりながら読み進めていく。
主人公には、告白して付き合っている彼女がいる。彼は彼女を愛しているし、彼女も彼を愛している。実に人間味を感じるが、彼女の余命は一か月。実に悲しくもかわいそうな状況に、読み手は共感を持つだろう。
書き出しはテンポが良い。
遠景で「あの夏は、俺にとって最後の夏だった――」と、現在から過去を振り返ってみせ、近景ではその過去の話がはじまり、「私、もうじき死ぬんだって」と彼女のセリフがきて、彼女の言葉をきい他主人公の「脳みそを直接殴られたかのような衝撃を受けた」心情が語られ、読み手は強く共感する。
二人の関係と、これからどんな物語がはじまるのか、書き出し三行で深く伝えている。
主人公の一人称視点で語り、内面の感情と思考を深く掘り下げている。直接的な対話と内省的叙述を組み合わせ、人の経験の複雑さを捉えているところがいい。
長い文にならないよう改行をこまめにし、一文を短く、さらに短文と長文を使って文章にリズムとテンポをつくり、感情を揺さぶっている。会話文に登場人物の性格を感じられ、詳細な描写と感情的な語り口が、主人公の経験と感情に共感する助けとなっている。
五感を鮮やかに描写しているのが特徴。
星空を眺め、ひまわりの花、花火を見るなど、視覚的な描写が豊富。海の波やジェットコースターの上で浴びた風を感じるところでは触覚的な刺激が描写されている。また、彼女の「私、本当は死にたくない」消え入りそうな声や確かな声、あるいは「もっと君と生きたい」「俺も、君と生きたい」俺たちの叫び声の聴覚的刺激がされている。
これらから、読み手に主人公の経験をより深く理解し、感情的なつながりを感じさせている。
主人公の弱みは、彼が彼女の死を受け入れることができないこと。
彼の、彼女に対する愛情の深さを示しているが、同時に彼の苦しみを増幅させている。
この弱みが、物語を切なく盛り上げていくのだ。
ただ、非常に感情的なので、話が重すぎるかもしれない。
また、彼女の病気についての詳細が不足しているため、余命一か月と知って、八月一日から思い出づくりをしながら、強がるような客観的なことを口にし、八月三十一日にもっと生きたいと叫んで亡くなった感じがする。彼女の病気をもう少し具体的に描くことで、彼女の状況と主人公の苦しみがより深く理解すると考える。
まるで、死ぬために彼女は出てきたようで、主人公共々、可哀想である。
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