いじめて、悪役ムーブをかます友達のイジメが可愛い。〜悪と月とエトセトラ〜
いじめて、悪役ムーブをかます友達のイジメが可愛い。〜悪と月とエトセトラ〜
作者 ミコトノリ812
https://kakuyomu.jp/works/16817330669032177841
葉梨実菜は僕に、いつも簡単で可愛いイジメをしてきて困惑しつつ、彼女が好きになっていく話。
文章の書き方云々は気にしない。
現代ドラマ。
ラブコメかしらん。
葉梨実菜は、実に可愛らしい。
主人公は、男子高校生。一人称、僕で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。現在、過去、未来、の順番に書かれている。
主人公は、高校で同じクラスになった葉梨実菜にいじめられている。彼女は、クラスの中心的人物で悪役令嬢や悪役姫といった感じ。
なぜいじめてくるのかわからないが、実にしょうもなくて可愛い簡単ないじめばかり。
机に置いていたはずが、机の中を整理整頓して教科書を隠したり、ノートの最初のページに書かれていたネコヌッコの可愛らしい落書きだったり。彼女はいつも、やってやったと言わんばかりのドヤ顔を披露している。
今日のいじめはなんだろう。そう思って一校時目の体育のために、更衣室で着替えているとき気付く。ズボンの丈だ。最近合わなくなっていたところだったが、長さはぴったり、糸くずもない。
急いで校庭へ行くと、今日は持久走。二グループにわかれて円陣を組み、準備体操をしながら文武両道の彼女のことを考える。自分は普通という感じ。顔もいいことないのに、いじめてくる理由がわからない。彼女に見惚れていると、みんなは走り始めていた。出遅れた主人公は必死に走り、途中で倒れる。気づけば保健室。隣には、すやすや寝ている彼女がいた。おきた彼女は「無理しちゃダメじゃない! ……もう知らない」とでていこうとする。
とっさに謝り、手を掴む。彼女は今日は満月らしいといい、空に浮かぶ白い月を見て、「月が綺麗だね……」という。それは告白、と思っていると「ッ!! そんな意味じゃないからね!!」彼女の慌てた言葉が聞こえる。
「綺麗な月を見れて嬉しいです《僕もです》」といいそうになるも内にとどめ、こんな関係が続くと良いなと月に祈るのだった。
友達がいるけどいじめてくるという謎と、主人公に起きる様々な出来事の謎が、どう関わって、どんな結末を迎えるのか、気になって読み進めていく。
導入である冒頭の書き出しは、遠景で友だちがいるけどいじめてくると描き、近景で、悪役令嬢ムーブをかまして楽しんでいるようで、そんな友達が可愛いいと描き、心情でその理由、やってくるのは少々イマイチないじめだからと感想をのべ、主人公の共感が読み手に共感となっていく。
その後、名前は葉梨実菜で、どういう子なのかといった具合に本編がはじまっていく。
主人公は、男子高校生。いじめにあっていて可哀想に思える。でも、悪役令嬢みたいな可愛らしい子に、いじめとは思えないような可愛らしくも嫌がらせに思えないことをされている。ある意味、羨ましい状況に、読み手は共感を持つだろう。
読みやすいよう一文ごとに改行し、句読点を入れて一文を短く、リズムをつけてテンポよく書かれている。口語的な文体で読みやすく、主人公の日常的な感想や反応が、リアルに描かれている。後半は間に会話を挟むようになっている。
五感の描写は、主人公の視点で語られ、彼の感情や感覚が豊かに描かれている。とくに実菜の行動や表情を観察する場面では、視覚的な描写が細かくされている。
登場人物の視覚描写は、どこに意識を持っていっているのかの現れなので、主人公がなにを意識しているのか、彼女の魅力が読み手に伝わりやすくなっている。
主人公の弱みは、実菜に対する気持ちを自覚していないこと。
彼は実菜の行動を「いじめ」と認識しているけれど、一方で彼女のことを好きだという感情には気づいていない。
彼女としては、好きな相手である主人公に気を引こうとアピールしているのだ。そんな二人のギャップ、主人公の弱みが、ラブコメとして成立させ、面白さを生んでいるのだろう。
実菜の「いじめ」が、実は主人公にとって喜ばしい出来事であるという逆転の発想がよかった。
それにしても、彼女はいつの間に、主人公のズボンの丈を直したのだろう。
体育のために更衣室で着替えるということは、このとき主人公は制服を着ていたことになる。寸法を測るときはいいけれど、丈を直すには脱いでもらわなければ難しい。
体育は一校時目。つまり、一時間目の授業。
登校して、ホームルームを過ごすまでの時間でやってのけたのかしらん。あるいは、気付いたのは更衣室でだっただけで、前日にはすでに丈を残していたのかもしれない。
日中に登る月をみることはある。はたして、一時間目、つまり朝の時間に満月をみることはできるのか。できるなら、それは何月頃のことだろう。調べる。
読後、タイトルからくる小悪魔的なイメージがうすれて、なんだか微笑ましい話だなと思った。
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