アオナツの空の下で

アオナツの空の下で

作者 功琉偉 つばさ

https://kakuyomu.jp/works/16818093077589562138


 ボジションはPFでバスケ馬鹿の流川瑠輝の目標はダンクを決めること。春の内に、そんな彼へ気持ちを伝えられなかった幼馴染の円堂光は、アオナツの間にこそ伝える決意をする話。


 文章の書き出しはひとマス下げる云々は気にしない。

 現代ドラマ。

 バスケの描写は素晴らしい。

 これもまたアオハル、いやアオナツだ。


 主人公は、高校二年生、流川瑠輝十六歳。一人称、俺で書かれた文体。ラストは、女子バスケ部の高校二年生、円堂光。一人称、私で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。

 

 女性神話の中心軌道に沿って書かれている。

 主人公はバスケットボールに情熱を注ぐ流川瑠輝、高校二年生の十六歳。女子バスケ部員で幼馴染の円堂光からは『バスケ馬鹿』と呼ばれている。身長は百七十九センチ。ポジションは四番のパワーフォワード。そんな主人公の目標はダンクを決めること。

 彼の一日は六時起床、朝食を取って電車通学。登校するとまっさきに部室へ行き、着替えて体育館で朝からバスケットボールの練習をはじめ、学校での授業、放課後のバスケットボールの練習と続く。

 六月二十一日、夏至の日。部活は休みだた、家の近くの公園で、幼馴染の光とバスケをしていた。春が終わるのが嫌がっている光に、「『春が終わる』じゃなくて『夏が来る!』だろ」という。春でなければ青春じゃなくなるという光。青春って春の期間って意味じゃないはずと伝えると、彼女は調べ「本当だ。『人生の春にたとえられる時期』だって……『バスケ馬鹿』のくせに」と文句をいう。

 バスケバカは関係ないだろといえば、「自分はシュート打って私のことを見向きもしないじゃん」返事に困る。

「そうだ! 青春があるなら青夏せいかでも良いんじゃね〜の?」 思いつきをいえば、光は「なんかいい感じ」と納得。そして念願だったダンクシュートを決める。そんな主人公に光はなにかいいかけたが、なんでもないという。

 その後、物語は光視点に切り替わり、彼女が瑠輝に対する感情を明らかにし、アオナツの間に気持ちを伝える決意を固めるのだった。


 無機質な電子音が部屋に響く謎と、主人公に起こる出来事の謎が、どうか変わり、どんな結末を迎えるのか気になった。


 主人公が起きるところから物語がはじまっている。

 ありがちなパターンとして、朝起きてご飯を食べて、通学して、といった朝の様子を描く作品は多い。読み手としては、はやく出来事が起きてほしいと思うもの。

 一般的なら、朝のルーティンより主人公の動きのある出来事から描いたほうがいいのだけれども、本作の場合「バスケ馬鹿」と幼馴染に呼ばれている主人公は、どういう性格でどんな考えをしているのか、動きで描きたかったと考える。だとするなら、朝起きる瞬間からバスケ中心な生活をしていると、もっと感じさせても良かったかもしれない。

 

 主人公は、高校二年生でバスケ部。ワイヤレスホンで音楽を聞きながら登校したり、通勤通学中のラッシュを避けつつ、朝練のために早い電車に乗って、スマホで小説や漫画を読んだり、普通の文庫本を読んだり、気が向け単語帳を開いたりするなどは、読者層である十代の若者の共通点であり、物語から現実味も感じさせてくれている。


 一人称の視点で書かれ、瑠輝と光の両方の視点から物語が展開されている。これにより、読者は二人のキャラクターの内面を深く理解できる。また、会話と内省が巧みに組み合わされており、キャラクターの性格と感情がよく表現されているところがよかった。

 なるべく長い文にならないようにしていたり、一文を短くしようと心がけていたり、会話文を挟んだり、短文と長文を使ってリズムとテンポを良くしている。ときに口語的で、用語の意味を( )を用いて簡単に説明したり、会話から性格が伺える。後半、光との会話はどちらがどの会話なのか迷うものの、よく読めばわかる。

 五感を駆使した描写が用いられている。視覚的刺激はもちろん、

触覚の刺激である朝の冷たい水、嗅覚のバスケットボールシューズのゴムの匂い、聴覚のボールがリングに入る音など。

 とくに音によって、リングにボールが入る違い「スパッ」「ザンッ」「パコンッ」が描かれているところが実に良く、バスケをしたことがある人なら共感するところだと思う。

 主人公の日常生活とバスケットボールに打ち込む姿が、生き生きと感じられるところもよかった。そう思えるほど、バスケの描写が素晴らしい。本作のウリだと思う。


 瑠輝の弱みとしては、彼が自分の感情をうまく表現できないこと。

 特に、光に対する彼の感情は明確に描かれていない。

 バスケ馬鹿といわれても、嫌な気分になっていないし、部活のない日に彼女を誘って一緒にバスケの練習をするところから、光に対して好意を抱いているように感じる。

 いまは、バスケの面白さが上回っているのかもしれない。

 春が終わると嘆く光に、彼なりのアドバイスをしているところを見ると、バスケに夢中なだけではないのがわかる。

 そんな微妙なところが描かれているところがいい。

 強みとしては、バスケの詳細な描写とキャラクターの内面の掘り下げ。これにより、没入できるだろう。


 ただ、物語の進行がやや遅いと感じるかもしれない。

 本作では、ダンクが決まるまでの努力の過程を描いているけれど、彼の目標が明かされるのは、後半ラストの方。瑠輝の目標や動機がもう少し明確に描かれると、彼のキャラクターがより鮮やかになったのではと考える。

 最後に、光視点が少し描かれている。彼女をもう少し早く登場させておけば良かったかもしれない。いっそのこと、登校するときから彼女を登場して絡ませておけば、彼女の感情や動機がより読者に伝わりやすくになり、春が終わるまで告白できなかったと後半嘆くところにつながり、全体のバランスがよくなったのではと邪推する。

 

 読後、タイトルを見て、アオナツの発想はいいなと思った。

 もう少しこの二人がどうなるのか、読みたくなった。


 

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