後追の果てに

後追の果てに

作者 如月ちょこ

https://kakuyomu.jp/works/16818093081493011032


 自分を追いかける存在だと思っていたが修斗に負け自殺を選び先へ進むも、彼の影となったことを理解する柊弥の話。


 現代ドラマ。

 いろいろと考えさせられる。


 主人公は、男子学生の柊弥。一人称、俺で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。


 それぞれの人物の想いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプの中心軌道に沿って書かれている。

 主人公の柊弥はクラスの中心であり、修斗はただ自分を追いかける存在だと考えている。しかし、次第に修斗が自分を超えていくことに気づき、不安と焦燥感に駆られていく。

 最終的に、主人公は自分が修斗に完全に負けてしまったと感じ、自殺を選ぶ。しかし、死後も自分が修斗より先に進んだ事実に安堵し、自分の葬式を上から見守る。修斗が葬式で「ご冥福をお祈りします。――――“The shadow of SHU-TO”」と言った瞬間、主人公は全てを理解するのだった。

 

 クラス内カースト一位でも人気があるわけじゃない謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どんな関わりがあり、どんな結末を迎えるのか気になる。


 書き出しでは、主人公が通う学校内のカースト制についてふれながら、これから語られていく本作品についても説明をかねている。

 遠景で上位だからといって、人気があるわけではないと説明して、近景でカースト最上位の生徒に取り巻きがいて、裏で『付属品』という悪口を言われることが多いこと、クラスで目立たない生徒たちは、カーストの上位者やその取り巻きを静かに観察していること、取り巻きたちは自分たちが仲良しであると認識しているかもしれないが周りから見ればそうは思われていないし、実際、本当に仲がいいと思っている可能性は低いことが示されてから、 心情で「俺も、こいつ――修斗のことはただの俺に付いてく付属品としか思っていなかった」と語られ、なるほどと共感していく。

 

 長い文にならないよう改行し、地の文のあいだに会話文を挟み、一文は句読点で区切って短くして読みやすくしている。

 一人称視点なので、主人公の心情や思考がリアルに伝わってくるし、修斗と主人公の関係性が徐々に変化していく様子が巧みに描かれているのが上手い。

 とくに主人公の心理描写に重点を置いて、感情の変化を丁寧に描いているのが特徴で、非常に読みやすい。おまけに、修斗のキャラクターも謎めいていて、興味が惹かれる。 

 本作は、主人公の内面的な葛藤と感情を描いており、主人公の苦悩を深く理解することができるけれど、五感の描写はあまり見られない。クラス内のカースト制についても、どういう関係が見て取れるのか描写もないし、修斗の容姿もわからない。

 描写があるのは、主人公が死んだとき。あの世から見たときの視覚的情報、「無性ヒゲを生やして、髪の毛もボサボサで。手入れなんて全くしていなかった俺の遺体。対して髭は剃られ、髪の毛はセットされて。それどころか、奥さんと一緒に俺の葬式に参列している修斗」が書かれているため、むしろ強調されているよに思える。

 一般的に、死に化粧の際、ヒゲを剃ったりもする。今回、主人公は自殺をしたので、家族が頼まなかったのかもしれない。


 主人公の最大の弱点は、自分が常に上でありたいというプライドと、修斗に対する劣等感。

 これらの感情が主人公を追い詰め、最終的に自殺という選択をさせてしまったのだ。


 主人公の性格や考え、過去の行動などからどのような行動を取るのか、ある程度予想できる。でも、物語の終わりに死を選ぶ展開は、予想外で、衝撃的だった。

 

 修斗が主人公の影に甘んじていたのは、追い抜くためだったのだろう。先駆者の大変さは兄弟間でもみられるように、下は上の失敗を見て学び、成長していく。

 兄弟間では、下の子が上の子の失敗や成功を観察し、それを基に自分の行動を修正することがよくある。

 上の子は未知の領域に挑戦し、試行錯誤を繰り返す。その過程で得た教訓は、下の子にとって貴重な学びの材料となる。

 例えば、上の子が学校でいじめに遭った経験があれば、下の子はその対処法や回避策を学べるのだ。

 社会的低い地位にいる人々が、成り上がるために努力する例も多く見られる。学校や職場でのいじめやハラスメントに対する対処法を学び、自己改善を図ることで、将来的にリーダーシップを発揮するようになることがある。

 修斗は耐えながら学び、自分が成長するための方法を学んでいたのだろう。


 光と影は、対立する要素がお互いを引き立て合う関係にある。

暗い影があることで明るさがより際立ち、逆に光の輝きがあることで影がはっきりと浮かび上がる。

 光が強く当たれば影は濃く出るように、修斗は主人公によって強くなり、逆転されてしまったのだ。


 本作品は、他人を単純な役割として捉えず理解することの大切さ、自己中心的な見方は本当の価値を見落とす可能性があることも教えてくれている。

 主人公は、誤解を認め、視点を変えることで修斗の本当の価値を理解することができたけれど、時すでに遅く、彼は自身の過ちを受け入れるしかなかったのは悲しかった。

 単純な見方に陥らないよう、心がけたいものである。



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