檸檬

檸檬

作者 功琉偉 つばさ

https://kakuyomu.jp/works/16818093077147070737


 僕と檸檬好きのクラスメイトの女子が出会い、自分は檸檬みたいな人だと伝えようとする話。


 現代ドラマ。

 まとまったオチ、青春って感じ。


 主人公は、男子学生。一人称、僕で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。


 それぞれの人物の思いそうぃしながら結ばれない状況にもどかしさを感いることで共感するタイプの中心軌道に沿って書かれている。

 昼休み。友達が先にお昼を食べて体育館に遊びに行く中、主人公は遅れてしまい、急いで空き教室でお弁当を食べようとしたら、檸檬を丸かじりしているクラスの女子と出会う。彼女は檸檬の栄養素や野菜でなく果物であること、檸檬の漢字や名前の由来について語り、主人公に檸檬を食べさせようとする。酸っぱさに変な顔をしつつ、お互いに騒がしい活動が苦手であることを語り、一緒に昼食をとることになる。最後に主人公は、自身は檸檬みたいな人だと彼女に話し、花言葉の意味をいつかは伝えたいと思うのだった。


「なに食べてるの?」と投げかけた言葉の謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どんな結末に至るのか、興味を惹かれる。

 書き出しがよかった。

 遠景で、何を食べているのかを聞き、近景で檸檬と答え、心情で主人公の置かれている状況が語られる。徐々に状況が明らかになっていく。

「友達が早弁をして体育館に遊びに行っている中」の早弁の本来の意味は、午前の授業中、もしくは休み時間に昼食に食べる弁当を食べる行為のことなので、作者の言いたいことが読者にはうまく噛み合っていない気がする。

 そもそも早弁をするのはお腹が空いているからで、お昼はお昼で食べる。

 本作ではおそらく、友達は体育館で早く遊びたかったから、急いでお昼のお弁当を食べて体育館に行ったのだろう。そのことを表現しているのではと考える。


 少年の一人称視点で語られ、彼の内面的な葛藤と感情が深く掘り下げられている。会話と内省が巧みに組み合わされ、日常の一コマ、檸檬というありふれた果物を通じて、登場人物の性格と関係性が明らかに描かれているところが良い。

 一文が長いとこもあるけれども、句読点をいれたり、ときに口語的だったり、会話文には登場人物の性格がわかるようにしていて読みやすい。

 五感の描写としては、檸檬の鮮やかな色や酸っぱさ、視覚と味覚の刺激を用いて描かれている。


 主人公の弱みは、少女に対する感情をうまく表現できないこと。

 彼は彼女に惹かれていることを認識していると思われる。わかっていながら、自分の気持ちをどのように伝えるべきかをしらない、もしくはわかっているけど、うまく言い出せない。

 そんな弱みが、面白いドラマにしているのだろう。


 全体的によくまとまっていて面白そうなのだけれども、少女の容姿や背景など深みがあると、二人との関係性もよりイキイキしてくるのではと考える。

 また、少年が「檸檬みたいな人」である自己認識がどのようにして生まれたのかがもう少し描かれていると、オチとしてもより面白くなった気もする。

 読後、二人は似た者同士という印象があって、微笑ましく思えた。

 檸檬の酸味甘味苦みは、青春を想起させてくれる。二人の関係性を表すのにピッタリだと思った。



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