麦わら帽子のあの子

麦わら帽子のあの子

作者 功琉偉 つばさ

https://kakuyomu.jp/works/16818093081252703830


 夏休みになると主人公のもとに現れる麦わら帽子をかぶった少女と出会い、サヨナラも告げずに去っていく。今年も彼女が来るのを待ちわびている話。


 ちょっと不思議な現代ファンタジー、その冒頭といった感じ。

 素敵な夏が始まる予感がただよっている。


 主人公は、子供。一人称、僕で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。現在、過去、未来の順に書かれている。


 女性神話の中心軌道に沿って書かれている。

 毎年、夏休みになると夜に主人公が寝ている部屋の窓から、麦わら帽子をかぶった少女がこっそりと入ってくる。

 南風に乗って、彼女の到着は風鈴の音で知らされ、彼女はいつもひまわりを帽子に差している。

 彼女が来ると、主人公は夏が始まったと感じる。

 彼女は黙って手を引いて、にっこり笑いかけてくれる。彼らは夜の夏の街を探検し、特別な世界を冒険する。終わって家に帰ると、彼女はいつもどこかへと帰っていく。

 主人公は彼女が何者なのか、大人になったら彼女を忘れてしまうのではないかと心配しながら、今日も窓を開け、夏の暑さを感じながらあの子がやってくるのを待っている。


 夏休みになるとあの子はかならず僕のもとに来る謎と、主人公に起こる出来事の謎が、どう関わっていくのかが気になる。


 主人公は子供で、夏休みがある。夏休みがはじまると、窓からこっそりやってくる麦わら帽子の少女がいて、あの女と一緒に冒険の夜に出かける。彼女が何者なのかといったことは、聞いてないし、いつも黙っているから教えてもくれなさそうなところが、さびしいかんじがする。そんなところにも共感が持てる。


 具体的な描写と感情的な言葉を用いて書かれている。長い文にならないよう、行変えをしていて、一文に句読点を入れて短くし、ときに口語的に書かれ、リズムのいい書き方がされていて読みやすい。

 主人公の視覚的な感覚を中心に描かれているけれど、「夏のジメジメした風」「夏には似合わない涼しい風」「風鈴がチリン」といった、触覚や聴覚の刺激も描写して、物語を引き立たせている。


 主人公の弱みは、彼女についての不確かなことと未来への不安。

 彼女が何者なのか、彼女がいつまで来てくれるのかを知りたいと思いながら、聞けないでいる。そんな弱さがあるから、夏休みになると彼女と出会いを楽しみに待つのだろう。


 主人公と麦わら帽子の少女の関係に焦点を当てて書かれているけれども、少女が何者なのかがわかると、深みを増すかもしれない。

 彼女は夏の象徴、夏の冒険の精神的なパートナー、インナーチャイルドのようなものかもしれない。

 あるいは、夏特有の、魔法やロマンスの象徴かしらん。

 彼女が話さない、冒険が終わるとどこかへ帰ってしまうのは、彼女が一時的な存在であり、夏が終わると消えることを暗示している。

 つまり、退屈な夏休みという日常を、冒険と喜びを持たらし、非日常にしてくれるイベントを、彼女は象徴しているのやもしれない。

 夏休みになったら、海や山に行く、親戚の家にいって遊ぶとか、スイカをいっぱい食べるとか、なんでもいい。

 子供のとき、夏休みに抱いていた楽しみの象徴、それが彼女なのだ。夏休みになるとウキウキワクワクしていた感情の比喩、擬人化だと推測する。

 大人になっても残っているのか。

 ひょっとしたら、子供のときに感じた気持ちは味わえなくなるかもしれない。

 そんな思いを主人公は感じながら、彼女がやってくるのを待っていて、今年の夏も来てくれたのだ。

 

 最近の夏は暑すぎて、素直に楽しめないかもしれない。

 でも子供には、夏休みを楽しんでもらいたいものである。

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