物語の犠牲

物語の犠牲

作者 ナナシリア

https://kakuyomu.jp/works/16817330665631978372


 死後、物語世界で死ぬためのキャラクターの少女と出会い、死がわかってから好きな人ができ死ぬたくなったけど死んだことを語り、主人公に別れを告げ、彼の存在が薄れていくのを見る話。


 ファンタジー。

 メタ的な話。


 主人公は、死後、物語の中に生まれかわったミドルもしくはティーンエイジャーの男子。一人称、僕で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。


 女性神話の中心軌道に沿って書かれている。

 主人公は生前、死の直前恋をする物語をよく読んでいた。

 物語のような恋はできなかったし、順風満帆な人生でもなかったが、満足して死を迎えた。目を覚ますと、物語に出てくるような、謎空間に鎮座していると、十代後半くらいの少女と出会う。

 彼女には好きな人がいた。自分の死がわかってから好きになり、死を受け入れていたのに死にたくなくなった。死んだら、自分が生きていた世界は現実ではなく、人々を感動させるための娯楽、物語の世界であり、自分が死ぬために創られた物語のキャラクターであることを明かす。

 彼女は、自分が死ぬ運命にあったこと、そして自分が死ぬために創られたことについて話す。

 死とはなにか聞かれ、その先はなにもないのではと主人公は答えると、彼女は自分には先があり、無でなく無限、全知全能ではないけれども、何でもできるようになったという。

 自分の力は、死ぬために作られたことへのお詫びだと受け取り、

少女の物語を読んでいた主人公だったから、死後、連れてきたと語りだす。「でも、死者を長く縛っても仕方ないよね。じゃあね」と彼女は主人公に別れを告げ、彼の存在が薄れていくのを見る。

 この空間にいる感覚が薄まり透けていく主人公は、彼女の愛する人は物語の中で死ななかったから一人で死んでいるしかないと思うのだった。


 僕は死んだ謎と、主人公に起こる出来事の謎が、どんな関わりをし、どんな結末を迎えるのか気になり、読み終わったあとは考えさせられる。

 異世界転生モノかとおもわせるような展開からはじまるが、実際は違い、メタ的な話となっていくところは予想外に思わせられるかもしれない。読者がどんな作品を読んできたかによるので、すべての読者がどう思うとは限らない。

 大概は、死んで気がついたら幽霊になっていた、あるいはあの世だったという予想をしながら読み進めていくと考える。


 主人公は死んでいる。「僕と同級生くらいに思えるので、十代中盤から後半だろうか」と出会った少女と自分は同級生だと思っていることから、十代後半で主人公は死んだことがわかる。

 また、「物語のような恋はできなかったし、順風満帆な人生を歩みはできなかった」とあり、生前はそれほどいい人生を送ってこなかったこともわかる。

 それだけで、可愛そうだと思えてしまう。

 でも、「最期の瞬間に僕は満足していた」とあるし、そもそも死んだのに意識もはっきりしているので、主人公は特別な存在かなというところにも、共感を持って読んでいける。


 二人は物語に出てくる謎空間といった、不思議な場所にいる、謎空間とは、きっと果てが見えない真っ白な空間なのだろう。

 少女は十代中頃か後半の同級生みたいという抽象的な書き方がされていて、全体的にふわっとしている。

 二人とも、死んでいる存在だからかもしれない。


 主人公視点で、彼の感情と思考を直接描写し、会話と内省が混ざっているため、主人公の心情を理解できる。

 長い文でなく、会話を挟んだやりとりと、ときに口語的で、一分も短いので読みやすい。

 物語は主に会話と内省によって進み、キャラクターの感情や状況を描写するために五感も用いている。「彼女の笑顔が切なげに目に映った」など視覚的な刺激を中心に描かれている。

 死んでいるので、視覚以外の情報を書きにくいのかもしれない。


 主人公の弱みは、彼が死んだ後も物語の世界に留まることを選択できないこと。

 彼は少女との会話を楽しんでいたが、彼女が彼を解放するとき、彼は何もできなかった。しかも、求めもしなかった。


 物語のキャラクターが自己認識を持つメタ的な視点を採用しているところが魅力だろう。物語の中の世界の少女と現実の世界からきた主人公が交差する独特の設定には深い印象をおぼえる。

 彼女が死ぬために創られた事実、彼女がどのように受け止めているかについての描写は共感を引き出してくれている。

 結末は、少女が主人公を解放し、彼女自身が一人で死ぬ運命を受け入れるというもの。


 彼女は死ぬために作られた存在だと、どうやって知ったのか。

 少女が死後に全知全能に近い力を得たことが示されているので、その力を使って、自分が死ぬために創られた存在であることを理解したのだろう。

 また、彼女はその力を使って主人公を物語の世界に引き寄せたのは、彼が物語を愛し、彼女の物語を読んでいたことから、特別な体験をする適切な人物だと選ばれてのかもしれない。

 彼女は物語の中から、主人公を見ていたことになる。

 それもまた、全知全能に近い力をもっていたからだろう。

 

 カクヨム甲子園の中には、キャラクターを殺せば読者を感動させられると思って書かれた作品があるかもしれない。少なくとも、そういう作品を過去、読んだことがある。

 青春小説には、二人が出会い、何らかの経験をして考え方を改め、相手のキャラが死んで主人公は悔恨するも強く生きようと思うパターンの作品が多い。

 盛り上がりを作るために殺されるキャラクターは、実に厚かましく、不憫である。

 本作は、作者が感動させる都合で殺してきたキャラクターの代表として登場しているのかもしれない。

 自分のように不憫な思いをしないよう、創作する側は、主人公以外のキャラクターも愛してほしいと訴えかけている気がする。

 


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