「純愛」
「純愛」
作者 Youg
https://kakuyomu.jp/works/16817330651469334621
好きなキャラクターの「彼」と別れ、新しい「彼」ができるも、元カレのことが忘れられないで日々過ごしていると、訪ねてきた母に現実を見なさいといわれ、実家へ連れ戻される話。
以外な展開。
程度の差こそあれ、世の中にはそれなりにいるだろう。
主人公は、おそらく女子大学生。一人称、私で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。現在、過去、未来の順に書かれている。
女性神話の中心軌道に準じて書かれている。
経歴もよく一流の企業に勤めている母より、小さいころから英才教育を受けて育った主人公。遊ぶ時間もなく、毎日家庭教師がやってきた。次第に心を閉ざし、中学三年生には友達もいなくなった。参考書を書くためにでかけた本屋で、偶然出会ったのが「彼」だった。
主人公は好きなキャラクターを恋人にしている。本屋「Reverie」で、好きな「彼」が掲載された書籍から、別れを告げられた。家に帰り、彼は彼女を愛していることを知り、泣き崩れる。
その本屋で出会った別のキャラクターに夢中になり、一緒に暮らすことになって二年が経過。いまでも、元彼のことが忘れられずにいた。
そんなとき母が訪ねてきて、いい加減彼を紹介しなさいという。「いつまでも遊んでないで外資系に就職しなさい。一体あなたにいくら使ったと思ってるの」
「……今日は無理。来月には行くから」としか言い返せなかった。
「いつまでも夢ばかりではなくて、現実を見なさいって言ってるの!」 リビングに横になる彼に声をかけても、姿を見せない。助けに来てくれない。家の中に母は入り、どこに話していた彼がいるのか聞かれると、「そこのソファで横になってるじゃん。ね?」
埃まみれの本とフィギュア、そして彼の写真とポスターが壁一面に飾られた部屋で母は泣き崩れ、その後、母に連れられて実家へと売れていかれた。部屋のソファに彼を残して。
「私は泣くことができない。どれほど素晴らしい作品を見てもなくことはできない。私にあるのは喪失感ただそれだけであった。私がこうなってしまったのはきっとあの日から」という謎と、私に起こる様々な出来事の謎は、どんな関わりがあり、どんな結末に至るのかが気になる。
本屋で「彼」に別れ話を切り出され、失恋する主人公は人間味があり、可哀想でもあり、そんな後に新しい彼ができ、二年も同棲のような生活が続いている状況は、字面だけ見れば羨ましく思え、共感できるだろう。
読者層の中には、アイドルの追っかけ、ファンや応援している人、推し活をしている人、好きなキャラクターがいる人などを共通点と想起してつくられたのではと考える。
そんな読者は、主人公と自分自身を比較したり、自分事のように捉えるたりして読むかもしれない。
「そんな本屋が怖くなり私は逃げるように『彼』を引いて本屋を出た」でモヤッとした。彼を引くとはどういうことか、いまひとつ想像できなかったから。
でもおかげで、書籍に彼が掲載されていたのだろうと想像がつく。それ以前に、「彼」と表現しているので、本作では一般的の意味での彼とはちょっと違いますよ、と作者からエクスキューズを出してくれているのは、親切でありがたい。
主人公の内面的な葛藤と感情が直接的に描かれている。
会話と内省が交互に展開され、物語の進行と主人公の心情の変化を同時に描き、読みやすく、読者はより強く感じられる。
文章を長くしないようにしていたり、読みやすく行間をあけていたり、長い文と短文をつかい、リズムやテンポから感情を揺さぶっている。会話のセリフからは、登場人物の性格を感じられる。
五感の表現は、視覚的な刺激が豊かで、主人公の感情の変化を色彩や光と闇を用いて表している。他の感覚―聴覚、触覚、味覚、嗅覚―の描写は少ないのは、主人公の「彼」が二次元のキャラクターであるためだろう。
主人公の弱みは、元恋人への未練と新しいパートナーへの感情の葛藤。この欠点が、物語を面白くしている。
主人公が母親に、現実を見なさいと実家に連れ戻されたあと、冒頭部分に書かれている現在の心境へとつながっているのだろう。
つまり、彼たちを失くしたことで、素晴らしい作品を見ても泣くことはできず、喪失感があるばかり。
喪失感をより大きく感じるには、元彼や新しいパートナーについての描写、人物像をもう少し具体的に描かれていると、主人公との関係性や重要性がより伝わり、喪失感も大きく感じられたのでは、と考える。
本屋の「Reverie」は、目覚めながら夢見ているようなぼんやりとした状態。楽しいことの空想、夢想という意味。この辺りからも、「彼」が何者なのかを気づかせる工夫がされているのかもしれない。
タイトルを読後に見ながら、たしかに純愛だった。
けれども、想いを自身が生きている世界、リアルに向けなければ、本当の意味では純愛にたどり着けないのではないか。
「彼」が主人公に別れを告げたのは、現実を見てほしいという「彼」の願いだったのではないだろうか。
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