十字路にて

十字路にて

作者 曇空 鈍縒

https://kakuyomu.jp/works/16818093081418217420


 主人公とその部隊は特別機動隊として任務を遂行するが、過激派からの奇襲攻撃を受け、重傷を負い、意識を失う話。


 現代もの。

 リアルな描写と臨場感がいい。

 生々しく、痛ましい。


 主人公は、神奈川連隊第二大隊の男性隊員。一人称、俺で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。


 女性神話の中心軌道に沿って書かれている。

 数日前、空港を過激派が占拠。報道関係は空港内に侵入し、中継車で道路を封鎖するなどの方法で、過激派協力している。

 過激派に占拠された空港を包囲する人員を確保するため、交番や刑事から人を集め、つい昨日編成したばかりで機動隊としての訓練を受けていなければ、装備も古い盾と警棒だけ、吹くも単なる作業着。名前ばかりの特別機動隊、神奈川連隊第二大隊の隊員の一人である主人公は、幌付きトラックに乗って川崎臨港警察署を出発、午前六時半に田園風景広がる十字路に到着した。

 空港から離れた安全地帯である空港近辺に隠された火炎瓶など武器の捜索と検問の設置任務を行う。一時間が過ぎた頃、小隊長から「北林事務所方面に火炎瓶二百本が隠されているという情報が入った。我が第一小隊は、これより十字路北側の捜索に向かう!」と命令され向かうも、危険物が見つかることはなかった。護符鬼終わり、整列して捜索を終了しようとしたとき、停車していたトラックが炎に包まれる。

 白いヘルメットを被り、角材や鉄パイプ、いわゆるゲバ棒を持った過激派の集団が、続々と笹藪から飛び出し、一直線に突っ込んできた。数名の小隊員がゲバ棒によって瞬く間に殴り倒される中、主人公は盾を構える。

 相手は二百人ほど。第一小隊はせいぜい三十名。戦力差は明らかだった。「奇襲攻撃を受けた! 支給、援軍を求む! 早く!」小隊の無線手が、無線機に向かって怒号を飛ばす。大体本部にも、多数の過激派から攻撃を受けていると連絡が入る。

 投擲された火炎瓶が目の前で炸裂。盾で防ぐも、火の粉が作業着に飛び散る。一気に燃え広がり、地面をのたうち回る。数名の過激派が、ゲバ棒を振り下ろしてきた。

 過激派はヘルメットと服を無理やり剥ぎ取り、さらにゲバ棒を振り下ろしては手錠をかけられる。交戦している隊員はごく少数で、一人、また一人と倒れていく。隊員の一人が、裸にされて殴られながら土下座させられている。竹槍を持った過激派が、機動隊員の腹部を何度も何度も突き刺していた。突如として顔にジュッと焼けるような激痛が走り、 皮膚がドロドロと焼けこげていくのが分かる。顔を掻きむしりたい。だが、腕に手錠がかけられていては何もできない。全身を走っていた痛みが、少しずつ消えていく。やがて自分の首がゴキリと音を立てるのを聞いた。意識は永遠の暗闇に消えた。


「俺たちが十字路に到着した時、時刻は午前六時半を回っていた」という謎と、主人公に起こる様座な出来事の謎が、どう関わり、どんな展開を経て、どのような結末に至るのかが気になる。

 

 主人公は、普段は交番勤務の警察官をしている。

 体力しか取り柄のない若手警察官として、過激派に選挙された空港を包囲する人員確保のために集められた特別機動隊に参加。

 特別とあっても、機動隊として訓練も受けていないし、装備も古く、難燃性の生地で作られた出動服ではなく、単なる作業着。しかも早朝の晩夏、安全地域での空港近辺に隠された火炎瓶など武器の捜索と検問の設置任務。可哀想な扱いに感じる。

 退屈な任務に、新たな任務にワクワクしたり、また捜索を命じられて落胆するなど、人間味のあるところにも共感する。


 詳細で具体的に、主人公の視点を通じて現実的な描写と緊張感あふれる展開が特徴的で、よく書けていた。

 前半は状況を伝えながら、人物の動きを示している。長文すぎず、読みやすく区切り、ときに口語的で書かれ、長文と短文を使って感情のテンポよく揺れ動きを伝え、後半はとくに臨場感を与えている。

 五感を駆使した描写が読者に臨場感を与えている。視覚はもちろん触感や聴覚、主人公が盾の重さを感じ、爆発音を聞き、痛みを感じる様子などが具体的に描かれている。

 

 主人公の弱みは、機動隊員ではなく、彼の部隊が適切な訓練や装備を持っていないこと。

 おかげで過激派との戦闘において劣勢に立たされ、最終的には主人公が重傷を負う結果となる。


 特別機動隊に参加している主人公の目標を明らかにして、性格や価値観、交番勤務をしていること、過激派との対立といった、直面している問題や葛藤を描写することで、過激派と争うことになることは予想しやすかったと思われる。

 正義頑張れ、悪滅べといった戦いの構図を想像しやすいところ、過激派の圧倒的な数で酷い目にあう展開は読者の予想を裏切る展開に驚きを与えるだろう。

 とくに、主人公の視点を通したリアルな描写と緊張感が、生々しくも痛ましい感情を感じさせてくるところは、文章としてよかった。

 

 読後、「十字路にて」のタイトルを考える。

 物語の舞台や状況を象徴しているのかもしれない。

 十字路は、二つの道が交差する場所。

 主人公たちが直面する選択や葛藤、予期せぬ出来事と遭遇する状況を暗示しているのでは。

 また、主人公たちが十字路に到着するシーンから展開しているので、物語の重要な転換点を示しているのだろう。


 物語やキャラクターの背景が、もう少し詳しく描かれていると、さらに深く没頭できるではと考える。

 空港に過激派が占拠し、主人公たちの小隊には二百名が現れている。大体本部はもっと多かったと想像される。

 そうなると、過激派の人数は千や万を超える大人数が存在するのではないか。この過激派は、周辺住民も一緒に参加しているのかもしれない。

 

 本作の元になった話は、「東峰十字路事件」と考える。

 この事件は、一九七一年九月十六日。

 場所は、千葉県成田市東峰の十字路。

 新東京国際空港(現在の成田国際空港)建設予定地近く。

 事件発生前には、反対派が武器を隠しているとの情報があり、神奈川県警察特別機動隊が後方警備として派遣された。

 千葉県が空港建設予定地内の土地に対して行った第二次行政代執行の初日。

 神奈川県警の特別機動隊が、この地点で検問や捜索を行っているところ、反対派は警察の進行を阻止するために集結し、火炎瓶や竹槍、角材、丸太などの武器で武装して襲撃。

 神奈川県警の特別機動隊員三名が殉職。二〇六人が負傷した。

 東峰十字路事件の、反対派の人数は約三千人とされている。

 千葉県が行った行政代執行に対抗するために集まった反対派の集団の規模であり、空港建設に反対する農民や活動家で構成されていた。警察側も大規模な警備体制を敷いており、約五千五百人の警察官が動員されていたという。

 この事件は、警察と過激派との衝突の象徴的な事例となり、以降の空港建設に関する議論や警備体制に大きな影響を与えた。

 事件から五十年後の二〇二一年には、殉職した警察官を追悼する慰霊祭が行われたという。


 短編で終わらせるのは、もったいないかもしれない。長編小説ならばきっと、この話の後で、物語の世界観の概要が語られていくのだろう。

 それにしても、人間はここまで残忍なことができるのか。

 嘆かわしくも、恐ろしく思えた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る