罪と知って罪を重ねる
罪と知って罪を重ねる
作者 色葉みと
https://kakuyomu.jp/works/16818093081133985091
吸血鬼の存在を知ってしまった「僕」と、その存在を知らせることが罪であると知りながらも贖罪のために行動する「私」の話。
ファンタジーを使い、吸血鬼と太陽の石を比喩に用いて、わたしたちの罪について考えさせられる。
実に哲学的な作品だ。
主人公は二人。一人は少年。一人称、僕。もう一人は吸血鬼。一人称、私で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。
それぞれの人物の想いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプの中心軌道に沿って書かれている。
少年の僕は、亡くなったおばあちゃんからもらったペンダントを探している途中、吸血鬼の男性に出会う。男性はペンダントを見つけてくれたが、その瞬間、相手が吸血鬼だと知る。吸血鬼の男性は少年に自分の存在を知らせることが罪であると告げ、血を吸った。
意識を失い、翌朝目覚めると首に鈍い痛みが残っていることに気づくのだった。
吸血鬼である私は、この世界に存在してはならない存在として生まれ落ちた。彼の存在は世界に歪みをもたらす。その歪みを防ぐために「太陽の石」を集める必要がある。しかし、石を集める過程で所有者に自分の存在を、血を吸う行為で知らせることが罪であると知りながらも続けることが、彼の贖罪である。
世界にある『知らない』『知る』という罪の謎と、少年の僕と吸血鬼の私に起こる出来事の謎が、どのように関わり合いながら、用いられた比喩は一体何を表しているのかが気になる。
亡くなったおばあちゃんがくれたお守りである新緑色の石がついたペンダントを失くしてしまったことから、おばあちゃんに愛されていたことがわかるし、突然失くしてかわいそうでもあり、現れた吸血鬼の男がいった「不思議な血を守っている」という特異な存在であるところに、読者は共感し興味が惹かれる。
またもう一人の主人公である吸血鬼の男も、中世ヨーロッパの貴族風な華やかな衣装をいた吸血鬼という特異な存在であり、少年な亡くしたものを拾ってあげるや、いきなり襲って血を吸うのではなく、わざわざ自分が吸血鬼だと伝えてから行為に及ぶといった人間味のあるところ、特別であるから世界を歪めてしまう可哀想な存在なところに、共感と興味が湧く。
それぞれの主人公の視点で語られており、長文ではなく、ときに口語的で読みやすく、リズムもテンポあり、読者の感情を揺さぶってくる。
二つの視点、二人の対話が進行を助けており、「僕」と吸血鬼の対話は物語の緊張感を高めている。
感情や状況の描写が豊かで、読者に対して強いイメージを与えてうれている。吸血鬼の変化や「僕」の感情の描写が印象的で、二人の内面的な葛藤や思考をも伝えてくる。
吸血鬼の存在を知ってしまった「僕」と、その存在を知らせることが罪であると知りながらも贖罪のために行動する「私」の対比が興味深い。
物語の進行とともに、それぞれの視点から「知ること」と「知らせること」の罪について深く考えさせられ、二人のキャラクターの異なる立場や感情が、物語に深みを与えている。
なにかしらの哲学的な問いを投げかけているところが、本作の魅力だ。
吸血鬼やペンダント、太陽の石は何を意味しているのかを考えてみた。
吸血鬼は、知識や情報の象徴として描かれていると推測した。
主人公の僕が吸血鬼に出会うことは、禁じられた知識を知ることを意味し、噛まれたあとは、結果としての罪を象徴しているのではないか。
なくなったおばあちゃんからもらったペンダントは、過去や記憶の象徴。主人公がペンダントを探すことは、自分の過去や記憶を探求することを意味しているのだと考える。
太陽の石は、希望や救済の象徴。
吸血鬼が太陽の石を集めることは、世界の歪みを修正しようとする努力を示していると考えてみた。
過去や記憶を探していると、禁じられた知識を知り、罪を犯した。
禁忌の知識は世界を歪めてしまう。歪みから世界を救うために、過去の記憶から叡智を求めようと罪を重ねていく。
たとえば、禁じられた知識を核と考えてみる。
人類は核を手にしたが、平和利用ではなく戦争の道具、大量破壊兵器として使用した。各国は互いに核を持ち、つかの間の平和を築くも、自分たちの星を破壊尽くせるほどの核を手にしている。争いをなくそうと互いに働きかけてきたけれど、世界は綻び、いまも罪を重ねている。
本作は、こんなわたしたちが暮らしている世界を喩えているのかもしれない。
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