【異世界で超縛りプレイ】俺は、棍棒だけで魔王を倒す。【棍棒勇者】

月亭脱兎

第1話 異世界で超縛りプレイ


集中力が最高潮に高まり、心臓の鼓動を感じ、全身にアドレナリンが駆け巡ると、世界がまるで静止したかのように感じる。

ああ、この瞬間がたまらない。

俺は今、生きていることを実感している。


「もう、クリアか…」


俺は大きな溜め息をつきながら、ゲーム用ゴーグルを脱ぎベッドに大の字になった。


購入日にゲームを最速でクリアすることは俺にとってもはや日常茶飯事だ。

普通のゲーマーなら絶句するハードモードでも、大した差を感じることはない。


俺はどこにでもいるごく普通の高校生だった。

学校に行き、授業を受け、部活もせず、放課後、まっすぐ自宅に帰り、自分の部屋にこもってゲームを攻略…とまあ、一見そこらの普通のゲーム好きでちょっと根暗な男子ったわけだが、ひとつだけ、ちょっとだけ、人と違う才能があった。


俺は小さい頃から様々なゲームをやってきたが、どんなゲームもほぼ初見で、時にはゲームオーバー無しでクリアしてしまうのだ。


最初はみんなそんなものだろうと思っていたのだが、オンラインをやるようになってから、ゲームの仲間から、異常だ、チートだ、特異体質だと騒がれ、自分の異常性を自覚するようになった。


確かに俺は、勉強もスポーツも人並みかそれ以下なのだが、ことゲームとなると並外れた集中力、理解力、応用力を、異常なレベルで発揮することが出来る。


それと、俺だけの持つ、ある特異体質がそれを可能にしてきた。


それがどんな能力なのかは、まあ、後々話すとして…


誰にでも一つくらいは特別な才能があるんじゃないかと思う。


例えば普段は弱気なのに、車のハンドルを握ると人が変わりオラオラで超絶テクニックを披露する漫画のキャラクターとか、ちょっと説明しずらいんだが、俺にとってはゲームがそれなのだろう。


そんな俺の最近は、ゲームをもっとハードに楽しむべく、自らに不利な条件課したプレイ、すなわち縛りプレイでゲームをクリアすることが日常になっていた。

ノーダメージクリア、アイテム使用禁止、低レベルクリアなど、その挑戦は日に日にエスカレートしていき、常人では到底クリア不可能な縛りプレイに挑戦することで、自分に新たな刺激を与えていた。


そんな日々を過ごしてたある日、久しぶりに刺激的なゲームライフが始まった。

それがフルダイブ(超リアル仮想現実)型の最新RPG「クエルクス・ワールド」だ。


徹底的にリアリティを追求したゲームだけあって、様々な設定が精巧に作り込んであって、攻略スタイルも無限に存在する。

敵のAIも優秀で様々な技やパターンを組み合わせてくるので今までのどんなファンタジーRPGより難易度が高いと言える。


俺はそんな超難しいクエルクス・ワールドを初期装備のみでクリアするという前代未聞の縛りプレイの挑戦真っ最中なのだ。


ゲーム仲間の誰もが、さすがに不可能だと嗜めてきたし、時には馬鹿だ、どMだと嘲笑されもしたが・・・ついに、クリア直前まできた!


「さすがのラスボス魔王もそろそろ限界のようだな」


攻撃ターン制で殴り合う旧型ゲームとちがい、リアル追求型のエクスト・ラワールドは、現実の喧嘩や格闘のように、相手の攻撃を正確に見切ることで、回避も反撃も可能なのだ。そこで俺が攻略の糸口としたのが


「あたらなければどうということはない」戦法。


それはRPGではなく、シューティングゲームでは?と思われるかもしれないが、勝てばいいのだよ勝てば。


「次で魔王の体力を削り切れるはず!」


地面をほど走る魔王の斬撃を直前で回避した俺は、カウンタースキルを乗せた渾身の攻撃を繰り出す。


見事にヒットしたその瞬間、電源が落ちたように画面が消え、視界も真っ暗になった。


「なんだよ、まさか停電か?!」


驚きと焦りと怒りが混じる中、目の前に奇妙なメッセージが浮かび上がった。


「勇者よ、あなたを異世界に召喚する。」


俺がその意味を理解する間もなく、瞬く間に体が光に包まれ、誰かが意識のなかに話しかけてきた。


「君にはこれから我が世界を救う勇者として転生してもらう」


「これって、まさか…異世界転生?……ふざけるなよ」


「…いや、ふざけてはおらんのだが」


その人物は、白いローブをまとい、威厳ありげな態度で俺にに話しかけた。

どうやら異世界の神らしい雰囲気というか、たぶん神だろう。


「俺の成願達成を邪魔しといて…異世界とか転生とか知るか!」


いつもと調子が違うのか、神らしき人物は俺の態度にやや困惑ながら話を続ける


「ここは転生の準備をする場所だ。君は特別な才能を持っているため、我々の世界に必要な存在とされたのだ。」


「特別な才能?もしやゲームのこと?」


「その通りだ、拓海。君のゲームセンスは異次元レベルだ。それを見込んで勇者として選んだ。」


「ゲームのセンスが、異世界とどう関係があるんだよ」


クリア直前でつれてこられかなり不機嫌な俺は態度もキツめなのだが、神らしき人物は気にしてない様子だ


「君が行く異世界は、さきほどまでプレイしていたゲームと共通点が多い・・・というよりとても似ているのだよ」


「ああ、なるほど、それなら話は別か…」


ゲームとなると俺の飲み込みは人一倍早い、なんとなく自分が召喚された理由がわかったような気もしてきた


「さて、召喚される勇者には、ここで特別な能力を授けることになっておる」


神が話を続けようとしたその瞬間、俺が遮る


「いや、いらないっす」


神は一瞬、言葉を失った。


「え?え!?何故だ?」


「だって、チート能力なんかあったら超ぬるゲーになるじゃん。俺は難しいゲームが好きなんだよ。だから、できるだけ難しくしてほしい。」


神は額に手を当てて深いため息をついた。


「まさか……ここでも縛りプレイを要求するつもりか。」


神は呆れた顔をしながらも、気を取り直し


「分かった。では、こういうのはどうだ?毎日一定数のモンスターを倒さないと呪いにかかる縛り。」


「ぬるいな。もっとこう、絶望的な感じがいい。」


神は少し考えた後、再び提案した。


「では、回復アイテムの使用を禁止する縛りは?」


「まだ甘い。もっと激しい縛りをくれ!」


俺が興奮し始めたので、神はやや困惑しながら


「じゃあ、例えばどんな縛りがいいんだ?」


俺は目が輝かせて、答えた。


「そうだな、最弱の武器しか装備できない縛りなんかどう?」


神は驚いた表情で


「最弱の武器となると…攻撃力+1の棍棒だぞ。君は正気か?」


「それだ!最高だ!そういうのが良いんだよ、やりがいがある!」


俺が大満足の表情で頷くと、神は再び深いため息をつきながら


「分かった…では、君が望むように最弱の武器、棍棒(攻撃力+1)しか装備できない縛りを与えよう。」


「おお!」


「ただし!!負の能力のみを付加することは、この世界の法則上できないのだ。だから釣り合う条件として、レベル上限の撤去と、25%の確率で敵の防御力を貫通するユニークスキルを与えよう。」


「まあレベル上限はどうでもいいが、ユニークスキルとか要らないんだわ!」


「だめだ!わずかでも魔王を倒せる可能性を残しておかないと私の立場が危うい、聞き分けろ!」


一瞬考えたが、温和そうな神がちょっとお怒りモードだったので、渋々ながらもその条件を受け入れることにした。


「25パーセントか、まあそれくらいなら許容範囲か。」


神は再び威厳ある姿勢に戻り、俺にに向かって何やら呪文のようなものを唱える。


「では、勇者拓海、これより君を異世界へ転生させる。その・・・縛りで、魔王討伐に成功することを祈っている。」


次の瞬間、再び光に包まれた。目を開けると、俺は、見知らぬ神殿の魔法陣の上に立っていた。

周囲には複数の術者らしき格好の人間がいてザワザワとしていて、その中に1人だけ漫画みたいな美女がいる。

スタイルの良さがわかるタイトな白い服、首や腰回りを飾っている黒と金の蔦模様の防具。うーむ、ファンタジー、現実世界にこんなのが居たら100人が100人二度見するだろう。


あ……これは間違いなく異世界だわ。


こうしてこの日俺は、棍棒だけで魔王を倒す。という究極の異世界縛りプレイ(無理ゲー)に挑戦することになったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る