第2話 過去最強で最低の勇者

「ここは…どこだ?」


と周りを見渡していると、俺をとり囲んでいるローブを纏った集団の中から、先ほどの美しい女性が歩み出てきて深々とお辞儀をした


「ようこそ、勇者様…….」


年齢は20歳前後だろうか、白髪に近い長い金髪が華奢な二の腕にかかり、透き通るような肌と絶妙にマッチしている。

なにより顔が驚くほど整っていて、氷のような涼い目線がクール!プロポーションもモデルように完璧、まさに絶世の美女というやつだろうか。

よくみると耳の先端が少し尖っている、おそらくエルフってやつだな。


「私はエイム王直属の魔導士アルティナ、あなたのお世話を賜ります。」


彼女は穏やかで落ち着いた声で話しかけてきた。


「早速ですが勇者様を王の元へご案内いたします」


まだ状況が飲み込めないまま、俺は頷いた。


「わかった。よろしく頼むよ、アルティナ」


アルティナは微笑みながら手を差し出してきた。その手を取ると、彼女の手はクールビューティな顔立ちとは裏腹に驚くほど柔らかく温かかった。

異世界系の本はいくつか読んだことがある、おそらく定番的には、ここから、この超美女と、ハーレムな展開に……となるのだろうが、あいにく俺にそんな願望はない。

むしろ早く外に出てレベリングしたい。


「では、参りましょう」


 アルティナに導かれて神殿を出ると、そこには広大な城とその周囲に広がる王都が見えた。石畳の道が整然と敷かれ、人々が忙しそうに行き交っている。


「ここが異世界か…すごいな、あのゲームをもっとリアルにした感じだな」


思わず口に出してしまった俺の言葉に、アルティナは微笑んだ。


「はい、ここが王都テーベス。歴代の勇者様もこの地から、困難な試練の旅へ立たれました」


彼女の言葉に、俺の鼓動も高鳴る。困難な試練こそ、まさに俺が求めるものだからだ。

これから何をするべきか、どうやってこの世界で生き抜くべきかを考えながら、王宮へと歩みを進めた。


「勇者様、こちらです」


アルティナに案内されて広大な王宮に入ると、豪奢な装飾が施された廊下を進んでいく。

やがて巨大な扉の前に立ち止まり、アルティナが扉を叩いた。


「入れ」


低く重厚な声が響き渡り、扉が開かれた。深呼吸をして一歩前に踏み出すと、広間には威厳に満ちた王が玉座に座っていた。周囲には高位の貴族たちが並び、全員が俺に注目している。


「100年に一度の最強勇者よ、よくぞ来た」


王の声が響き渡り、俺は一礼をした。


「俺が…最強勇者ですか?」


「そうだ、国難を救うために召喚された君は、我が国の守護神であるアポスト神より、ここ100年で最強の勇者であると啓示されておる」


あ、それであの神は縛りプレイに否定的だったのか。

期待されすぎて逆に申し訳ない気持ちになってきた。


「わかりました。魔王の討伐をせよと、その神より聞いてます。」


俺のその言葉に、広間にいた全員が頷いている。王は満足そうに微笑み、後ろに控える従者に目で合図をおくると、その者が両手に仰々しく剣を持ち俺の前に歩み出てきた。


「では勇者よ、我が国の至宝である大地の聖剣 オーリューンを受け取るがよい」


「あ、いらないっす」


「はあ?いまなんと?」


少し間のぬけた声で王が聞き返すと、周囲の貴族らしき面々もざわつき始めた。


「もらっても、装備出来ないんですよ俺」


王はすこし困惑しながらも、気を取り直し


「ああ、知っておったか、たしかに大地の聖剣 オーリューンは、剣が持ち主を真の勇者と認めるまでは鞘から完全に抜くことはできぬ、しかしこれは安易に聖剣の力を使わせないという神からの縛り、そなたが成長した時に必ず抜くことができるはずだ、受け取られよ」


どうも分かってないらしい、まあ説明してないから当然なのだが、神も彼らに何も伝えてないようだ。


「まあ、俺には使えないと思いますが、頂けるのならもらっておきます」


こんなに期待してくれてる面々を前に、己の楽しみのために、棍棒しか装備出来ない縛りだなど言えば、どえらい騒ぎになりそうだし、さっさとレベリングに向かいたいしで、適当に受け取ることにした。


「100年に一度の最強勇者でありながら、己に厳しく慎重な姿勢、さすがといったところだな」


王が満足そうなので、俺の判断は正しかったのだろう、まだ話は続くのだろうか。


「ところで、当代の魔王ゴルゴロスは、登場から120年が経つが未だ討伐できない異様な魔王だ、歴代で9人の勇者が挑んだが誰一人として生還できなかった、君が100年に一度の最強勇者だとしても相当に困難な相手となるだろう。」


ちょっとまてよ、生還しなかっただと?このゲーム、いや異世界では死亡後の復活なしなのか?


「それは、この世界で死ねば終わりということですね」


「うむ、たとえ神でも、死んだものを復活させる術はない・・・そこで、勇者どのを支援するために、この国で最も才能ある魔導士アルティナを従者として差し出すことにした、彼女の生死を勇者殿に預けたい」


アルティナは俺に向かって深々と頭を下げ、真剣な面持ちで見つめてきた。

やばいなこの顔は、普通の男ならこれでイチコロなんだろうけども


「いや、いらないっす」


「いらない、わたしは要らない?え?、え?」


アルティナはかなり動揺している、冷静な美女かと思ってたがこんな顔もするのか。


「そうおっしゃらず、こう見えても魔術、回復術、全般的に高レベルで扱えますし、魔力量もかなり」


「一人でやりたいことがあるんで、結構です、ご遠慮します」


「いや、いや、え、断られるとか想定していませんし、もう覚悟も決めてますし」


だんだん面倒くさい展開になってきたな、どうやったら引き下がってくれるのか


「勇者よ、まずやりたい事があるというのなら、その後でもかまわぬ、この件は一旦保留としてくれないか」


さすが王様、良い提案だ、なかなかに出来る人物のようだ。アルティナは放心したような表情で床を見ているが、虫でも見つけたのか?


 その後なんやかんやあったが、とりあえず俺は謁見の間を後にし街にくりだすことにした。


 どうやらこの世界の魔王はかなりの強者であるようだ、魔術、体術、剣術おいてレベル100に相当する実力に加え、複数のユニークスキルを持ち、それが尋常じゃない強さらしい。聞いてる限りチートプレイヤーを疑うレベルに強そうだった。

1デスで終了という条件でも本来はかなりの縛りなわけで、正直、最弱装備という縛りは失敗だったかもしれない。


「これはもう、常識を捨てないと生き残ることすらできないかもな」


俺のゲームポリシーは二つある。

完全にルールに従ってクリアする王道プレイと、システムのあらゆる仕組み、欠陥、全てをつかって攻略する邪道プレイだ。

今回は、邪道プレイでいこう、まともにやってたらおそらく死ぬ、確実に。


「そのためにはまず、金がいるな」


 そう決意した俺は、早速武器屋を訪れた、屈強なオヤジが訝しげな顔で俺の装備してる棍棒を一瞥し、ひやかしなら帰れと言わんばかりの対応をしてきたので、インベントリから大地の聖剣を取り出しテーブルに置いてやった。


「こ、これは、大地の聖剣オーリューンのレプリカじゃねえか!こんな精巧な品は見た事がない、鞘から途中までしか抜けないギミックも完璧、青白く発光する白刃の研ぎまで本物に近い、こりゃとんでもないクオリティだな、どこの聖匠が作った代物だ?」


まあ本物だからなと思いつつ幾らで買い取れるか尋ねると


「大地の聖剣のファンは貴族に多くてな、このレベルならそうだな・・・1000万、いや2000万でどうだろう?足りないなら数日まってくれれば・・・」


「よし、2000万で手を打とう」


それがどれくらいの価値なのかわからないが、この褒めようだとかなりの金額に違いない。

王家の至宝って言ってたから、ちょっと申し訳ない気持ちもしたが、まあ背に腹は変えられない。


 大量の王国金貨をインベントリにしまうと俺は、街中をくまなく巡り、使えそうなアイテムを片っ端から買い集めた。

かなり散財した思うのだが300万ほどしか使ってないので、あの剣の価値はかなり高かったのだろう。


そもそも、俺は望んでここに来たわけじゃないし、邪道プレイには金がかかるのが常だ。

どうせ装備出来ないんだから、有益に使ったと思ってくれればいい。


「さあて、レベリングにでも出かけるか」


 後から気がついたことだが、そんな俺の背中を物陰からじっとりとした目で見つめる美女がいた。

王直属の魔導士 アルティナだ。

王から、勇者をこっそりと見守るようにとの指令をうけていたアルティナだが、それ以上に俺に対する複雑な心境がこのころから芽生えていたらしい。


「私を断るとか、あの勇者ありえない、絶対にボロをつかんでやるんだから」


晴々しい王都の空と裏腹に、不穏な空気が漂う中、俺の異世界サバイバルはスタートを切ったのだった。

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