【10】

 「えっ、そうだったっけ?」

 「うん、小六からの付き合いらしい」


 「いや、幼くないでしょ、小六は」

 「幼いだろ」


 「全然幼馴染みじゃないでしょ、小六からの付き合いは」

 「小学生までに知り合ったら幼馴染みだろ」


 「そんな定義聞いた事ないんだけど」

 「常識だから誰も云わないんだよ」


 「だって、小六だよ? 小六。小六って小学生で一番上だよ? 思春期だし、変声期なんだよ? 大人の躰になっていくし、声だってどんどん低くなっていく時期に知り合った人を、幼馴染みって云えないでしょ」

 「ああ、そうか……」


 「えっ、まさかの論破? 数秒前は〝常識〟って云ってたのに。意外とすぐ折れた」

 「幼馴染みって、小学校に入る前からの付き合いのかもな」


 「あっ、低学年も譲るんだ。すごい改心っぷりだね」

 「改心って、俺、別に悪い事してないだろ」


 「ところで、秋充君って今でも乾布摩擦やってんのかな」

 「そうだ、毎朝やってるって云ってたよな、あいつ」


 「二十代で唯一じゃない? 乾布摩擦する人。てか、お年寄りでもなかなかいないよね」

 「乾布摩擦する最後の人だろうな、あいつが」


 「絶滅危惧種だよね」

 「あいつ、全然健康に気遣ってないくせに乾布摩擦だけやるの、ホント謎だよな」


 「えっ、そうなの? 健康マニアなんじゃないの?」

 「全然。むしろ不摂生だよ」


 「えっ、どんなところが?」

 「お菓子すげぇ食うし」


 「へぇー、そうなんだ」

 「飲み物はコーラしか飲まないし」


 「確かに、お店ではいっつもコーラだったよね」

 「アパートの目の前にある弁当屋によく配達頼んでるらしいし」


 「配達する人もびっくりだね」

 「マヨネーズ大好きで、ご飯とか納豆とかカレーに滅茶苦茶かけるし」


 「へぇー、マヨラーなんだぁ」

 「野菜も魚も全然食わないし」


 「お店に来たらいっつもポテトとかパフェとかだもんね」

 「そう、そんなミスター不摂生が乾布摩擦だけやってるわけ」


 「乾布摩擦にそこまでの不摂生をチャラにする程の効力はないよね」

 「乾布摩擦には荷が重過ぎるよな」


 「ホント面白いよね、秋充君って」

 「朝の四時っていうトリッキーな時間にやるしな」


 「朝の四時? そんな時間にやってたの? それは知らなかったぁ」

 「平日五日間、四時にアラーム掛けてやってるらしい」


 「あっ、アラーム掛けてまでやる割に土日は休むんだ」

 「そこもトリッキーだよな。しかも、乾布摩擦が終わったらまた寝て、本格的に起きるのは七時過ぎらしい」


 「えっ、乾布摩擦をする為だけに一旦早起きするんだ? じゃあ、本格的に起きた時にやればいいのに」

 「ホントだよな。小三の頃からやってるらしい」


 「小三からやってんの? 何そのストイック。乾布摩擦やる人史上最年少じゃない?」

 「最年少にして最後の乾布摩擦だな」


 「〝日本乾布摩擦協会〟とか立ち上げて乾布摩擦を広めればいいのにね」

 「誰も入会しないで、即破綻だな」


 「あはっ、そうだね」

 「ホントにあいつは変な奴だよな」

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