【9】
「年賀状代行?」
「うん、一枚につき百円で。あいつが年賀状代行やってんのがどんどん広まってって、ピークの年は一万ぐらい稼いでたんじゃないか」
「百枚?」
「うん、流石に後輩には頼まれないから四年生の時は少なかったみたいだけど、それでも三、四千円はいったらしい」
「てか、年賀状って、自分で書くから意味があるんじゃないの?」
「人に頼んでまで渡さなくていいよな」
「そう。年賀状は挨拶の為の物なんだから、〝あの人にこんにちはって云っといて〟って云ってる様なもんじゃない?」
「そうそう」
「解り兼ねるなぁ、年賀状代行頼む人の心理。貰った人も嬉しくないでしょ」
「あとあいつ、一回、ゲーム代行もやってたし」
「ゲーム代行?」
「うん、代わりに全クリしてほしいっていう依頼が来たらしい。これも五千円っつってたかな」
「その依頼主は何がしたいの? 何が目的でそのゲームを買ったの?」
「ラスボスを倒した後の平和なステージを散策したいらしい」
「解り兼ねるなぁ」
「ゲーム実況でも観ればいいのにな」
「もしかして、その依頼主ってビリヤードサークルの人?」
「そうそう、すごいな」
「女の勘、かな。その人、ゲーム上のステージを散策する為に別途で一万円払ってるって事?」
「そう、自分で買い行かないわ、ラスボス倒さないわ、滅茶苦茶だよな」
「修真君はホントに望んでたの? そういう、変な闇バイト。苦痛じゃなかったの? 先輩の圧で断れなかったとか?」
「文句は云ってなかったよ。てか、むしろ毎回喜んでやってた。なんせ銭ゲバだからな、あいつは」
「ふーん。そう云えば、柊真君は秋充君のお家の掃除してるって云ってたよね? もしかしてそれもバイト?」
「うん、掃除代行。月額二千円っつってたかな」
「月額?」
「うん、大学の頃から毎週末、暁充のアパートに行って掃除してるらしい。今は解んないけど」
「ふーん、てか、ホントに銭ゲバなの? 修真君って。ただ人の為に動くのが好きとかなんじゃなくて?」
「いや、あいつは銭ゲバだよ、正真正銘の。よく貰った金とか通帳見てにやにやしてたし」
「じゃあ、銭ゲバだね」
「家でよく作る料理はうなたれご飯らしいし」
「あっ、それは銭ゲバだね」
「あと、天たれご飯」
「銭ゲバだね」
「漫画は一回も買った事なくて、基本古本屋で立ち読みらしいし」
「銭ゲバだぁ」
「ティッシュ配り見掛けたら必ず貰いに行くし」
「銭ゲバだね」
「日用品はそれぞれ安い店とかセールの日とか熟知してるし」
「銭ゲバじゃん」
「で、何件もはしごして買うらしいし」
「うわぁ、銭ゲバだなぁ」
「自分で銭ゲバって云ってたし」
「じゃあもう、完全に銭ゲバだね。ってか、柊修真君ってビリヤードやってたの?」
「何の時差だよ。大分放置したな、ビリヤードの話」
「ちょっと、実感が湧かなくて、修真君がビリヤードって」
「サークルは秋充に、〝三千円やるからお前も入れ〟って云われて入ったらしい」
「秋充君もやってたんだぁ。てか、そこにも銭ゲバが絡んでくるんだ」
「秋充がもともとビリヤードが得意で、一人じゃ何だしって事で修真を誘ったわけ。あの二人は幼馴染みだからな」
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