【11】

 「うん、秋充君って意外とちょいちょい変わったところあるよね」

 「トリッキーな奴って大体、一見まともそうな見た目って云うからな」


 「そうなの? 初めて聞いたぁ。じゃあ、秋充君はまさにそれの典型だね」

 「木彫りの熊集めてるしな」


 「木彫りの熊? 木彫りの熊って集めるものじゃなくない?」

 「前にあいつの家に行ったら十箇所ぐらいに置かれてた」


 「十? 木彫りの熊って大体、ゼロか一じゃない?」

 「ホントだよな。弟から誕生日に貰った漫画の全巻セット売って喧嘩になったらしいし」


 「うわ、そりゃ怒るよ。せっかくプレゼントしたのにぃ」

 「〝全部読んだんだからいいよな?〟って、俺等に同調求めてたけど、満場一致で〝そういう問題じゃない〟派だった」


 「うん、私もその派閥。てか、暁充君って弟さんいたんだぁ」

 「兄貴もいるよ」


 「お兄さんもいるんだぁ?」

 「うん、兄貴も弟も年子」


 「すごいね、三年連続で産まれたんだぁ」

 「怒涛の三年間だよな」


 「ホントだよね。私、秋充君って何となく一人っ子かと思ってたぁ」

 「確かに一人っ子っぽいな。自由奔放だし」


 「そうそう」

 「あと、兄貴に毎月五万借りてたしな」


 「毎月五万? 毎月? お小遣いじゃん」

 「毎月借りては、返したり膨らんだりしてるらしい」


 「あっ、膨らむ事もあるんだ? トリッキーな浪費癖だね」

 「あとあいつ、一人だと大声で歌ったり叫んだりする癖があるらしくて、アパートに警察が来た事があるらしいよ」


 「隣の人が通報したんだ?」

 「そうだろうな。あと、夜、歩いてたら職質された事もあったらしいし」


 「どんだけ大声出してたんだろうね。トリッキー通り越してサイコパスだよね」

 「あと、何故かカラスが好きだし」


 「あっ、そうそう、前、カラスの魅力を延々とプレゼンしてたよね」

 「あいつのスマホのフォルダー、カラスばっかりだしな」


 「前に見せてもらった事あるっ! すごい量だよね。待ち受けもカラスだし」

 「カラス撮るのは高校でやめたらしいけどな。変な人だと思われると思って」


 「皆思ってるよね」

 「もう手遅れだよな」


 「そうそう、カラス撮るのやめたところでって感じだよね」

 「〝変な人だと思われる〟じゃなくて、〝変な人なのがバレる〟だよな」


 「あはっ、確かに」

 「トリッキーエピソードの宝庫だからな、あいつは」


 「ホントだよね」

 「がっつり真夏生まれのあいつの名前に〝秋〟って字を使うあいつの親ももなかなかトリッキーだよな」


 「えっ、嘘でしょ? 秋充君って夏に生まれたの?」

 「うん、夏生まれ」


 「えっ、秋じゃないの?」

 「うん、あいつの母ちゃんが、あいつを妊娠したって解ったのが秋だから〝秋〟って字を入れたらしい」


 「変なのぉ。季節を名前に入れるとしたら、妊娠した季節じゃなくて生まれた季節だよね」

 「ホントだよな」


 「てか、真夏生まれって事はもう時期なの?」

 「うん、あっ、そう云えば明々後日だな。あいつの誕生日」


 「私の分も、おめでとうって云っといて」

 「ああ、云っとくよ」


 「てかさぁ……、〝カームズ〟の活躍、もっと見届けたかったなぁ」

 「俺も、悔しいよ」

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