【10】
「学校の行事はもれなく泣いてたよね」
「そうそう、入学式とか卒業式とかね」
「学芸会とか運動会とかもね」
「あと、成人式の日とか」
「そうそう、写真撮影の時にも泣いてたもんね」
「写真撮影の時に一回、振袖姿見てるのに本番でもがっつり泣いてたよね」
「しかも私の時にもそうだったよね」
「流石に私の時で免疫ついてるだろうと思ってたけど、同じ様に二回号泣してたよね」
「免疫どころか、むしろ更に弱くなったんじゃない?」
「確かに、どんどん涙もろくなってるよね」
「泣けば泣く程、涙腺が鍛えられるどころか緩くなってくメカニズムなんだろうね」
「悪循環だね」
「極め付きが学芸会だよね」
「赤ずきん事件でしょ?」
「そう、赤ずきん事件。ママ引いてたよね。私も引いたけど」
「うん、私も引いたぁ」
「私が台詞飛んじゃってフリーズするやいなや泣き出すんだもんね」
「〝頑張れ……、頑張れ……〟って、間を埋める様に涙声でずっとエールを送ってたよね」
「で、私がやっと台詞思い出して云えたら本格的に泣きのスイッチ入っちゃったよね」
「そうそう、〝ああ、良かった……、思い出したぁ〟ってね」
「私、台詞飛んじゃった不安でちょっと涙声になっちゃってたけど、全然パパの方が泣いてたからね」
「もらい泣きどころか、本人より先に泣くし、本人より泣いてたもんね」
「学芸会のビデオは大体、後半からはパパの嗚咽とか鼻すすってる音ばっかりだったもんね」
「完全にそっちがメインだよね」
「娘が学芸会で台詞忘れたところ見て泣く父親なんてパパぐらいだよね」
「ホント、よく泣くよね、パパは」
「あの日も、泣いてた?」
「あの日?」
「ほら……、去年の」
「ああ、当たり前じゃない。今までにないぐらい泣いてたよ。何日も、何ヶ月も。パパだけじゃなくて私もママもね」
「そっかぁ、ホントごめんね」
「いいからいいから。謝らないの」
「でも……」
「莉那は悪くないよ」
「ホント、ごめんね」
「だから、莉那は悪くないってば。大体、顔も名前も住所も肩書きも何もかも明かさないで、しかも大勢でなんて卑怯過ぎる。てか、莉那は何もしてないじゃん……。全部デタラメだし……」
「ちょっと、涙声になってるじゃん」
「ごめん、何か、泣けてきた」
「ホント、ごめんね」
「だから、謝らないの」
「でもさぁ……」
「私さぁ、あの時、仕事終わってから莉那からのLINEに気付いたの」
「LINE? 私、LINE送ったの?」
「覚えてない? ほら、これ」
「へぇー、全然覚えてなぁい」
「これ見て、まさかって思ってさぁ、いつもと違ってスタンプないし、ほら、莉那のLINEって、いっつもブログ並に長文じゃん?」
「三行しかないね」
「そう、だから電話したんだけど出なかったの」
「そうなんだぁ。覚えてない」
「で、急いでママに電話したんだけど、遅かった……。ホント、ごめんね」
「謝らないでよ。謝らなきゃいけないのは私なんだから。ホントに、ごめんなさい」
「よし、話題変えよう。莉那も、昔から涙もろいよね」
「えっ、そう?」
「うん、感動系の映画とか観たらかなりの高確率で泣くじゃん」
「まぁ、確かに」
「そこはパパ譲りだよね」
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