【7】

 「あっ、そんなクライマックスだったんだぁ」

 「そう、だからそれだけ何とか頑張ったの」


 「そっかそっか」

 「ラスト二話はホント、抜け殻だったよ。でね、皆がすごい気遣ってくれたの。〝無理しなくていいよ〟って云ってくれたり」


 「よく頑張ったね」

 「大事な役だから、何とか頑張ったの」


 「アリスって役だっけ」

 「そう、アリス。奇跡の美貌を持つ五六〇歳の薬剤師のアリス」

 「第四期だったっけ」

 「そう、第四期」


 「流行ったよね、あれ」

 「そうみたいだね」


 「てか、声優ってホント尊敬する」

 「何云ってんのさ。女優の方がすごいに決まってんじゃん。声優は声だけだもん」


 「声だけだからすごいんじゃん」

 「どういう事?」


 「女優は顔とか動きとか使えるでしょ? でも声優は声しか使えない分、大変だと思うよ」

 「女優の方が大変だと思うけどなぁ」


 「てか、インスタはどうなの? 十万人が目標って前云ってたけど」

 「ああ……、SNSは、嫌いなの。あれ以来やってないし、見てもいない」


 「そっかそっか。パパとママは元気?」

 「うん、何とかね」


 「そっかそっか」

 「パパは目の下にくまができちゃって」


 「あら」

 「ママはすごい瘦せちゃった」


 「ホントに、申し訳ない事しちゃったなぁ」

 「莉那はそんな事思わなくていいの」


 「でもさぁ……」

 「謝らなきゃいけないのは私の方。ホントに、ホントにごめんね」


 「そんな、やめてよ」

 「ホントにごめんね」


 「あのさ、せっかく久し振りに逢えたんだし、楽しい話しようよ」

 「うん、そうだね」


 「パパは、相変わらずママ大好きな感じ?」

 「うん、こないだの結婚記念日は、例年通り薔薇の花束あげてたよ」


 「毎年恒例のあれね」

 「そうそう」


 「感心するよね、パパの愛妻家には」

 「ホントだよね。プロポーズでもそこまでする人いないだろうね」


 「確かに」

 「あと、一時期、結婚記念日に結婚式のビデオ、私達に観せてたよね」


 「ああ、あれね」

 「大泣きしながら手紙読むパパを何度観た事か」


 「で、パパが毎年同じところで大泣き」

 「そうそう、毎年、昔の自分からもらい泣きしてたよね」


 「毎年観てんのによく泣けるよね」

 「ホントそう。飽きもせずにね」


 「私が小六の時ぐらいまで続いてたよね、その風習」

 「そうそう。私が中二の時にママが、いい加減やめてって云って終わったんだよね」


 「やっぱり大好きなママにはジョウジュンなんだね」

 「ジョウジュン?」


 「何でも従うって事っ。ん? ジュンジョウ?」

 「従順の事?」


 「あっ、ジュウジュンか」

 「そう、従順」


 「猿が木に落ちちゃった」

 「得意分野じゃないじゃん、全然」


 「バレてたか。まぁ、あの風習はさ、ちょっと苦痛だったよね」

 「最初は感動したけどね」


 「そうそう、昔のママ、すっごい美人だよね」

 「うん、ホント、びっくりするぐらい美人だよね」


 「ホントびっくりしたよね」

 「ドレス似合ってたし」


 「うん、ホント素敵だったよね」

 「パパがママを溺愛してるのも解るよね」


 「うん、解る。そりゃ溺愛もするよね」

 「パパ、ママに一目惚れだったんだって」


 「だろうね。あんなに綺麗なんだもん」

 「何回も猛アプローチして付き合えたんだって」


 「何か、すごく想像出来るね」

 「普段から猛アプローチしてるもんね」


 「で、いっつも一方通行だよね」

 「そうそう、ママはもう慣れっこだから軽くあしらってる感じだよね」

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