【7】

 「あいつがコクったのか? 誰だよ」

 「北澤」


 「マジかよ、おい。よりによって学校のマドンナかよ。果敢に攻めたな」

 「せめて彼氏いる事ぐらいリサーチしとけってな」


 「北澤って彼氏いたのか」

 「知らなかったのか、お前」


 「もしかして、さとっちか」

 「だったら漫画みたいな組み合わせだったんだけどな」


 「誰と付き合ってたんだよ」

 「キム」


 「キム? あっ、あの、行った店のポイントカードを無差別に作りまくってるけど、どの店も全然行ってない、いわゆるペーパーポイントカード会員の奴か」

 「そう」


 「あの、教科書の落書き選手権で五連覇して殿堂入りを果たした?」

 「そうそう」


 「あの、授業中によくシャーペン分解して元に戻せなくなってた?」

 「そうそうそう、あっ、いや、それはマーミヤンだよ、マーミヤン」


 「そうだ、マーミヤンだったな」

 「キムの奴、今でも漫画家目指してんのかね」


 「よく自作の漫画書いてたよな」

 「絵は滅茶苦茶上手かったよな」


 「絵は上手かったよな。内容は壊滅的につまんなかったけどな」

 「つまんなかったな。でもまぁ、まだ当時は中学生だったからな」


 「いや、あのつまんなさは将来性ないだろ。〝まだ中学生だから〟でカバー出来るレベルじゃないだろ。ただ、絵はホント上手かったからな。話作る人と組めば問題なさそうだよな」

 「そうだな。画力に関しては中学生であれぐらいだったら充分やっていけそうだから組む人次第だよな」


 「しっかし、内容はつまんなかったよな」

 「つまんなかったな」


 「設定は既視感しかねぇし、アクションシーンはバリエーション少ねぇし、ギャグシーンは下ネタに頼り過ぎだし、キャラデザインもダサいし、登場人物全員、変な語尾で鬱陶しいし」

 「ずっと盛り上がらなかったしな。これから面白くなっていきそうな感じは漂わせてたけど結局ずっと平行線だったよな。折れ線グラフで云うと」


 「てか、ずっと底辺だったよな」

 「ずっと線が見えないぐらい下だったもんな」


 「ずっと地中を潜ってたよな」

 「そう云えば、あいつもフラれたの知ってるか」


 「あいつもか。誰」

 「新田」


 「新田? あいつ等仲良かったよな。てか、付き合ってなかったんだな」

 「そう思うよな」


 「あいつ等が付き合ってるっていう噂、校内で流布しきってたよな」

 「しきってたよな。まぁ、校内で男女が仲良くしてるとそうなるよな」


 「あいつ等、あんなに仲良かったのにな。あっ、そう云えば最後の方、あいつ等が一緒に喋ってんの全然見てない気がする」

 「だろ? それまではよく二人で映画館とか動物園とか水族館とか行ってたらしいな、あいつ等」


 「マジか。二人でか。それでフラれんのかよ」

 「女子って、好きでもない男と二人でそんなベタなデートスポットに行けちゃうんだな」


 「女子ムズいな」

 「キムの奴、自信あっただろうな」


 「とんだハニトラだよな」

 「流石にキムが可哀そうだよな」


 「キムの何が駄目だったんだろうな」

 「男として見られないって云われたらしい」


 「女子ムズいな」

 「ムズいよな、女子って。男として見られない奴と二人でベタなデートスポット行けちゃうのかよ」


 「てかあいつ、ちゃんとコクれたのかよ」

 「どういう事だよ」


 「あいつ、あがり症だったろ」

 「ああ、そうだったな。重度のあがり症だったよな、あいつ」


 「スピーチへったクソだったよな」

 「始業式のだろ? あれは酷かったよな。だんだん早口になってだんだん声が小さくなってって、見事にアッチェレランドとデクレッシェンドだったもんな」


 「アッチュレ? ディクレ? な、何? 何て?」

 「部活とか勉強の話したり目標云ってたのは何となく解ったけど肝心の内容は聞き取れなかったよな」


 「いや、もっと問題作なのがあるだろ」

 「えっ、あれよりも? なんかあったっけ」


 

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