【2】

 「不思議なもんだな。こうなった今でも普通にショックなんだな」

 「あと、お前の好きな歯医者の女の人いるだろ? 鮎川さんだっけ」


 「海老川さんだよ、海老川さん。海産物で間違えんなよ」

 「結婚した」


 「マジかよ、おい」

 「あと、お前の好きな美容師、尾藤さんだっけ」


 「武藤さんだよ、武藤さん。砂糖の有無で間違えんなよ」

 「結婚した」


 「マジかよ、おい。俺がマークしてた娘が次々と結婚したしてってんのかよ。結婚ラッシュかよ、おい」

 「あと」


 「まだあんのか」

 「お前の好きなマッサージ屋の女の人、湯川さんだっけ」


 「水川さんだよ、水川さん。温度で間違えんなよ。沸かすなよ。てか、嫌な流れだな。まさか水川さんまでもか」

 「いや、トイプードル飼い始めたらしい」


 「いや、知らねぇよ。なんで結婚三連発の後にトイプードルなんだよ」

 「あと、お前の好きなパン屋の女の人、小西さんだっけ」


 「大北さんだよ、大北さん。規模と方角で間違えんなよ。原型とどめてねぇじゃねぇか。で、どうしたんだよ、大北さんが」

 「結婚した」


 「結婚かよ。一回トイプードル挟んだから完全に油断したじゃねぇか」

 「あっ、そうだ。衝撃的なニュースがあるぞ」


 「もう充分衝撃受けてるよ」

 「なんと、〝おは曜日〟が終わった」


 「〝おは曜日〟ぃ? 何だ、それ」

 「知らないのか、土曜日の朝にやってたやつ」

 

 「知らねぇ」

 「『土曜日は、おは曜日ぃ!』って知らねぇのか」


 「知らねぇよ。何だ、そのクソダセェポーズは」

 「〝おは曜日〟知らねぇのか」


 「知らねぇよ」

 「和田さんがやってたやつだぞ」


 「誰だよ、和田さんって」

 「誰って、和田洋一さんだよ」


 「知らねぇよ」

 「えっ、アナウンサーだぞ、アナウンサー」


 「知らねぇって」

 「マジで〝おは曜日〟知らねぇのか。五年ぐらいやってたぞ」


 「だから、知らねぇって」

 「和田さんの前が池田さんで、その前が風呂田さん、その前が中島さん、豆腐谷さん、池田さん。で、狸原さん、糠川さん、蓼内さん」


 「五年でどんだけ司会者変わってんだよ。てか、珍しい苗字率高いな」

 「〝ふれあい食楽旅〟も終わっちゃったし」


 「知らねぇよ、それも。てか、テレビ観られんだな」

 「九時までだけどな」


 「九時までかぁ。キツいな」

 「キツいけど、一番キツイのは人間関係だよ」


 「成程」

 「変な奴が多いからな」


 「成程。やっぱそうなんだな」 

 「いっつもちょっとした事で揉めるわけよ。どいつもこいつも」


 「ふーん。皆、この環境下だからストレス溜まってんだろうな」

 「だろうな。ただでさえ変な奴が多いのにストレスで余計に揉め事が多いわけよ」


 「どんな事で揉めんだよ」

 「おかずの量が多いとか」


 「ホントにちょっとした事だな。些細過ぎるだろ」

 「だろ? いっつもしょうもない事で揉めてるわけよ。毎日修羅場だよ」


 「そう云えば、グッチも給食の時、誰かのおかずが多いとキレてたよな」

 「よくキレてたよな、あいつ」


 「グッチって今何やってんだっけ」

 「実家継いだって聞いた気がする」


 「ふーん。あいつって結構不器用だよな? 大丈夫なのかよ」

 「確かにな。家庭科の授業とかで遺憾なく不器用を発揮してたもんな」


 「蝶々結びも中学生まで出来なかったらしいからな」

 「マジかよ、おい。それ、不器用ってレベルじゃなくないか」


 「ヤバいよな」

 「そんな奴が建具屋なんか出来るわけないよな」


 「すぐにリタイアするんじゃないのか」

 「だろうな。ゲーセンにでも転職してんじゃないのか」


 「ゲーム馬鹿だったもんな、あいつ」

 「放課後よく付き合わされたよな」


 「あいつがUFOキャッチャーで景品獲るの、何度見守らされた事か」

 「ホントだよな。あいつ、ゲーム馬鹿のくせにUFOキャッチャー下手だったからいっつも一時間ぐらい付き合わされてたよな」


 「そうそう。下手のくせに負けず嫌いだから厄介だよな」

 「いっつも景品の値段の何倍の金も遣ってただろうな」

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