隔たりの中でなぞる、青き春。

【1】

 「あっ、そうだ。〝ストックホルムな恋〟ってあったろ? あれって最後どうなったんだっけ」

 「ああ、あれ、俺も途中までしか観られなかったわ」


 「そうか、お前もか。俺、一話しか観てないんだよなぁ。お前は何話まで観たんだよ」

 「七話。あと二話だよ、二話。滅茶苦茶いいトコだったのに」


 「どうなったわけ?」

 「崎川っているだろ?」


 「強盗の人?」

 「いや、強盗は上森。崎川は銀行員」


 「ああ、あの女の人か」

 「そう」


 「あの主役ポジションの」

 「そうそう」


 「あのポニーテールの」

 「そうそうそう。で、その崎川が上森に〝好きです〟っつって、上森が崎川を逃がした」


 「へぇー。気になるな、その後」

 「うん、滅茶苦茶気になる。これからって時だったのに」


 「しっかし、あのドラマは面白いよな。あれは五本の指に入る」

 「一話しか観てないだろ」


 「まぁ、そうだけど。一話で確信したわけよ。このドラマは絶対流行るって」

 「滅茶苦茶流行ってたぞ、あれ。毎回視聴率高かったらしいし、ネット上であのドラマの考察が流行ってたらしい」


 「やっぱな」

 「刈谷倫斗って演技上手いよな」


 「強盗の上森役の人?」

 「そう」


 「あの青いパーカーの?」

 「そうそう」


 「あのクリーム色のキャップ被った?」

 「そうそうそう」


 「確かに上手いな」

 「隠し子の噂出てイメージ転落したけど見事に巻き返したよな」


 「へぇー。隠し子? そんな事があったのか」

 「噂だし本人も特に言及はしてないから真偽は解んねぇけど、〝刈谷不倫斗〟ってネットで叩かれたらしい」


 「〝刈谷不倫斗〟って。面白いな。事務所の力で掻き消されたのかな」

 「どうなんだろうな。もし誤報だったらたまったもんじゃないよな」


 「そうだよな。マスコミとかって芸能人からしたらウザいだろうな」

 「だろうな」


 「特に熱愛報道とか」

 「ほっとけって感じだよな」


 「事実でもウザいけど、嘘でもウザいだろうな」

 「確かにな。美人な女優と熱愛報道出たらまんざらでもないけど、全然好きじゃない人と熱愛報道出たら絶対ムカつくよな。〝付き合ってねぇし〟って」


 「ムカつくよな、絶対。それでホントに彼女がいたら浮気だと思われるしな」

 「あと、前にテレビで誰かが云ってたけど、男一人女二人で歩いてたら女の片方を切り取ってあたかも男女二人で歩いてるかの様な写真にして熱愛発覚っていう記事にしたりするらしいぞ、マスコミは」


 「ヤバいな、マスコミ」

 「てか、お父さんに似てきたよな、刈谷倫斗」


 「お父さんも有名な人なのか。あっ、もしかして刈谷何だかって俳優か」

 「うん。刈谷遼太郎」


 「あの、飼ってるグッピー十五匹に徳川将軍の名前をつけてる?」

 「そう」

 

 「あの、ラジオ体操の第二だけ毎朝やってる?」

 「そうそう」


 「あの、初めてのカフェでよく解らずエスプレッソ注文したら少量が出てきて店員にキレた?」

 「そうそうそう」


 「へぇー。云われてみれば似てない気がしないでもないな」

 「そう云えば、〝スト恋〟の前にやってた〝星空メモリー〟も名作だったよな」


 「あれは名作だな。最終回の伏線回収っぷりが見事だったよな」

 「スカッとしたよな。あと、里田聡子がいい味出してるよな」


 「ああ、あの、『出産中のマングースみたいな声出さないでっ!』って云ってた人か」

 「そう」


 「『あの美容院、おまかせって云ったらドレッドにしやがったのよっ!』って云ってた」

 「そうそう」


 「『さっきからちょいちょいメソポタミア文明感出すのやめてくれる?』って云ってた」

 「そうそうそう」


 「あの女優は確かにいい味出してたな」

 「あんな有名な女優を一話で死なせるなんて贅沢だよな」


 「あれは度肝抜かれたな。もったいないけど斬新だよな」

 「あと最終回、滅茶苦茶泣けるよな」


 「ああ。あの最終回は反則だよな」

 「あっ、そうだ。話変わるけど、お前の好きなコンビニの女の子いるだろ? 赤井さんつったっけ」


 「青井さんだよ、青井さん。色で間違えんなよ」

 「結婚したらしいぞ」


 「えっ、青井さんが?」

 「うん」


 「マジかよ、おい」

 「去年の六月だった気がする」

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