【8】

 「ところであいつ、目は良くなったのか」

 「目?」


 「レーシックするって云ってたろ」

 「あっ! そうだっ! 云ってたねっ!」


 「やってないのか」

 「そう。すごい悩んでたけど、結局怖くてやめたんだって」


 「ふっ、あいつらしいな」

 「あっ、そうだ、面白い話があるんだけどさぁ」


 「大丈夫かよ、そんなハードル上げて」

 「うん、大丈夫。余裕で跳び越えるから」


 「すごい自信だな」

 「ヒデ君がこないだ、グレフルサワーのマドラーに口つけて一生懸命吸ってたのっ!」


 「ストローと間違えたのか」

 「そうっ!」


 「しかも一生懸命って、暫く気付かなかったのかよ」

 「そう。五秒ぐらいずっと口すぼめてたよ」


 「そもそもチューハイにストローつかねぇだろ」

 「ホントだよね。皆で笑ったもん、あの時は。ハードル超えたでしょ?」


 「超えたな」

 「あと、ヘルペスの事、カルパスって云ったり」


 「それもなかなかだな」

 「〝口にカルパスできちゃってぇ〟って云うから皆で笑ったよ、あの時は。口にカルパス生えたら大変だろって。あっ、そうだ、もう一個面白い話があるんだけどさぁ」


 「大丈夫か」

 「うん、これも大丈夫。余裕で跳び越えるから。こないだヒデ君がシェーバーと間違えて自転車のライト持って来た」


 「ヤバいな」

 「ヤバいでしょ?」


 「どんな間違いだよ、シェーバーとチャリンコのライトって。てか、何でシェーバーとチャリンコのライトが近くに置いてあんだよ。チャリンコのライトはチャリンコに付けてろよ」

 「寝坊して時間なかったから昼休みに剃ろうと思ってんだって。で、鞄に自転車のライト入っててびっくりしてた」


 「会社に来た時点で諦めろよ。何で途中からでも剃りたいんだよ」

 「ホント、いっぱいあるよね、ヒデ君のド天然伝説」


 「何ヶ月も使ってたボールペンにシャープペンもあんの気付かなかったしな」

 「あったあった。急に〝おおっ!〟って大声出すから何事かと思ったよね」


 「埋蔵金でも見付けたかの様なリアクションだったもんな」

 「ホント、よく気付かずにいたよね」


 「あと、自販機で冷たい缶コーヒー買ったつもりで熱い方買ったり」

 「えっ、それ知らない。そんな事あったの?」


 「去年な。あいつが缶コーヒー取り出そうとしたら急に大声出すからこっちもびっくりしたよ」

 「確かに冷たい方だと思って熱かったらびっくりするね」


 「あと、フィンガーボウルを映画か何かで観て、最初、飲み水だと思ってらしいし」

 「フィンガーボウル? 何それ」


 「レストランのテーブルに置いてあるボウルの水」

 「あっ、映画か何かで観た事ある。あれって、飲む用じゃないの?」


 「マジかよ、おい。此処にもいたのかよ」

 「えっ、何用なの? あの水」


 「指洗う用。エビ剝いた時とかに」

 「へぇー。そうなんだぁ。知らなかったなぁ」


 「お前等、フィンガーボウルを目の当たりにする前に用途知っといて良かったな」

 「確かに。赤っ恥かくトコだったわ」

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