【9】

 「ところで、あいつは相変わらず政伸と喧嘩してんのか」

 「してるよ、相変わらず。こないだもプリンで揉めてたし」


 「プリン?」

 「そう、プリン。ヒデ君が冷蔵庫に入れてたプリンをマサ君が食べちゃったの」


 「子供かよ」

 「マサ君がヒデ君から借りた漫画を全然返さないくて揉めたりとか」


 「中学生かよ。金の貸し借りで揉めるんならともかく、漫画で揉めるなよ、大の大人が」

 「あと、マサ君がヒデ君の足にコーヒー溢しちゃって揉めたり」


 「さっきから全部政伸の過失じゃねぇか。何で揉めるんだよ。あいつはキレる理由ねぇじゃねぇか。完全に逆ギレじゃねぇか」

 「あとこないだ、芸能界で誰が一番可愛いかで揉めてたし」


 「いや、何でだよ。揉める事じゃないだろ。各々のナンバーワンでいいじゃねぇか」

 「あと、前にマサ君が演歌口ずさんでたらヒデ君が〝歌詞違うだろ〟って」


 「しょうもなっ」

 「しょうもないよね。暫く揉めてたもん」


 「そんなのググれば決着つくだろ」

 「ホントだよね。で、両者一歩も譲らないままフェードアウトしてったって感じ」


 「そう云えば、前に英昭が歌ってる時に政伸がハモって〝ご本人登場みたいに入って来んな〟ってよく英昭がキレてたよな」

 「そのくだり、今でも月一でやってるよ」


 「マジか、あいつ等」

 「あと、ヒデ君がまだ観てないドラマの結末をマサ君が云っちゃって揉めたり」


 「ああ、あったな。〝結末解った上で観ても面白いから〟っつってたけどそういう問題じゃないよな」

 「ホントだよね。てか、僕も〝タスクのたすき〟観てたけど、そういうタイプのドラマじゃないし」


 「マラソンのやつだろ?」

 「そう。マラソンのやつ」


 「スポーツものは特に結末云われたら面白くないよな」

 「ヒデ君が怒んのも無理はないよね」


 「〝結婚した〟だの、〝死んだ〟だの、〝優勝した〟だの、ネタバレのオンパレードだったもんな」

 「〝録り溜めるから云うな〟って云われてるのに毎週云ってたよね。放送日の翌日に」


 「毎週なかなか丁寧なネタバレだったもんな。お前、リアルタイムで観てて良かったよな」

 「ホントそう。巻き添え喰らわなくて良かったよ」


 「あいつ、デリカシーないよな」

 「ちょいちょい問題発言あるよね」


 「前、漆原さんの前で〝ALR〟全否定したし」

 「〝ALR〟って、漆原さんの好きな〝オールウェイズ・ラフ・ランナーズ〟ってバンドでしょ?」


 「そう。お前が入社するちょっと前に、好きな歌手は誰かって話になって、漆原さんが〝ALRが好き〟って云ったらあいつが〝俺、あのバンド嫌いなんですよねぇ、歌詞がありきたりで〟とか云い出したわけ」

 「あちゃー、そんな事云っちゃったんだ。デリカシーないねぇ。漆原さんが好きなの解った上でそんな事云うなんて」


 「お前がどう思うかなんて聞いてねぇよって話だよな」

 「漆原さん怒ったでしょ?」


 「いや、それから必死の熱弁が始まったわけ」

 「成程。そっちのパターンね」


 「で、あいつは引き攣った顔で〝すみません……〟つってた」

 「流石に堪えたんだ」


 「原口の誕生日サプライズもあいつのせいでバレたしな」

 「あれは皆も大ブーイングだったよね」


 「あそこは上手く誤魔化せよな」

 「変なトコ正直だからねぇ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る