【6】
「朋靖はよく漆原さんに怒られてたよな」
「ついこないだも怒られてたよ。寝坊して」
「まだ治ってないのか、あいつの遅刻癖」
「うん。未だに健在だよ」
「前なんか、遅刻したくせにカフェオレ片手に出勤してきたよな」
「そうそう。あの時、漆原さん、すごい怒ってたよね」
「そら怒るよな。しかもホイップ追加されてたし」
「あとこないだ、麦わら帽子被って会社に来たんだよ」
「スーツにか」
「そう。スーツに。皆で笑ったよ、あの時は。寝ぐせ直す時間がなかったんだって」
「スーツに麦わらは変だろ。ハットとかなかったのかよ。てか、帽子被る時間があるなら髪に水つけられるだろ」
「ホントだよね」
「トイレットペーパー片手に出勤してきた事もあったよな」
「ああ、あったあった」
「あん時は笑ったよな。帰りに買えよって。後先の事考えなさ過ぎだよな」
「ホントだよね。案の定、置き場所に困ってたもんね」
「ちょいちょい抜けてるよな、あいつ」
「うん。ちょいちょい抜けてるよね」
「前、飲み会で漆原さんが真面目な話してる時にトイレ行ったもんな」
「まぁ、しょうがないと云えばしょうがないんだけどねぇ、あれは。でも、度肝を抜かれたよね」
「話のサビの部分だったもんな」
「漆原さんは酔ってたからか、それに関して何も云わなかったけど、皆、目が点になってたもんね」
「皆、〝こいつ、マジか〟って顔してたよな」
「そうそう」
「あと、あいつ、言葉のミスも多いよな」
「あるよね、結構」
「前に、〝ぞんざいに扱う〟の事、〝ぜんざいに扱う〟っつってたしな。何で和菓子が出てくんだよって話だよな」
「ぞんざい? 何、ぞんざいって」
「知らないのか。いい加減って事」
「量とか度合いが丁度いいって事?」
「いや、そっちの〝いい加減〟じゃない。〝程よい加減〟って事じゃなくて、悪い意味の方の、なんちゅうか、〝適当に〟みたいな」
「だから、適当な量とか度合いって事でしょ?」
「いや、そっちの〝適当〟じゃなくて……、てか、朋靖が抜けてるって話してんだから天然発揮すんなよ。朋靖が霞むだろ」
「あっ、そうだ。こないだ、トモ君が家の鍵失くしちゃってさぁ」
「また失くしたのか、あいつ」
「そう。また失くしたの」
「何回目だよ」
「朝、家で鍵がどっかに行っちゃった事に気付いて探してたらいつものバスの時間までもうちょっとになってパニックになって鍵掛けないで会社に来たみたい」
「いや、鍵見付かってないなら家出んなよ。しかも、会社まで来たのかよ。鍵掛かってない状態で」
「で、会社に来て小一時間して急に怖くなってきたのか、漆原さんその事云ったら、〝今すぐ帰りなさいっ!〟って」
「当たり前だろ。怖くなんのおせぇよ。通勤時間プラス小一時間って」
「で、家に帰ったら泥棒に入られた形跡はなかったんだってさ」
「ふーん。で、鍵は?」
「それがさぁ、カバンに入ってたんだって」
「どんだけパニックになってたんだよ。普通、カバンって最初に探すよな」
「ホントだよね。あっ、そうだ。ヒデ君が結構、トモ君の呼び間違いの被害に遭ってるよ」
「あいつ、よく人の名前間違えるよな」
「こないだヒデ君の事、ヒロユキって呼んでたし」
「字数しか合ってないな」
「あと、ヒサシって呼んだ事もあったし」
「性別しかあってないな」
「この前はチアキって呼んでたし」
「国籍しか合ってないな」
「でも、ヒデ君も割と抜けてるよね。結構いい勝負じゃない?」
「あいつもなかなかだよな」
「こないだ云ってたけど、モロヘイヤとほうれん草とチンゲン菜の違いが解んないんだって」
「マジかよ、おい。あいつホント、普段アニメばっか観てっから他の事何も知らないよな」
「最近は趣味を増やすキャンペーンやってるみたいよ」
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