「今は二人で行ったりしてないのか」

 「カラオケはあれから全然行ってない。飲みには最近何回か行ったぐらい」


 「ふーん」

 「ところで、何で漆原さんにバレたんだっけ。僕等の事」


 「んー、どうなんだろうな。女の勘で気付いたのか、それとも自分もそうだから気付いたのかわからんけど、前に云われた。〝そうですけど、あいつは隠してるんで〟つっといたけど」

 「えっ、漆原さんもそうなの?」


 「えっ、知らなかったのか。云ってなかったっけか」

 「ホントなの? びっくりだなぁ」


 「よく知らなかったな、今まで。漆原さんからも聞いてなかったのかよ」

 「全然知らなかったなぁ」


 「お前と同じらしいぞ」

 「じゃあ、どっちもって事?」


 「ああ。七割が同性らしい」

 「へぇー。じゃあ、比率も僕と一緒だ」


 「朋靖は、相変わらず彼女欲しいって嘆いてんのか」

 「あっ、トモ君、こないだまで彼女いたらしいよ」


 「へぇー。別れたのか」

 「うん。すぐ別れたんだって。その人、ヤバい人らしくて、背中にがっつり入れ墨してたらしいよ」


 「ヤバいな」

 「しかも龍の入れ墨」


 「ヤバいな」

 「二匹の龍がびっしり背中を覆ってたらしいよ」


 「ヤバいな」

 「で、初めてその背中見た時、問い質したら、〝云ってなかったっけ? 別に隠してた訳じゃないんだけど〟って、平然と云われたんだって」


 「ヤバいな」

 「ヤバいよね」


 「入れ墨彫るのはピアス開けるぐらいの感覚なのか、その女からすれば。まぁ、そんな女フッて当然だな」

 「いや、トモ君がフラれたらしいよ」


 「何でだよ」

 「部屋の温度設定で揉めたからだって」


 「何じゃそら。がっつり入れ墨してたの黙ってた前科があるくせに自分は温度設定が合わないぐらいでフるのか」

 「毎日の様にクーラーのリモコンの取り合いしてて、彼女がキレて出てったらしいよ」


 「まぁ、あいつの暑がりは尋常じゃないからな」

 「いや、その元カノの人はもっと暑がりだったんだって」


 「えっ、あいつよりも?」

 「そう」


 「えっ、あいつの適温だと彼女が寒がるから揉めたんじゃないのか」

 「いや、逆。彼女の適温だとトモ君が寒がるから揉めたんだって」


 「マジかよ、おい。あいつが寒がる事あんのかよ」

 「びっくりだよね。上には上がいたんだね」


 「あいつに〝寒い〟って云わせるってすげぇな。あいつ、人生で初めて〝寒い〟って感覚を覚えたんじゃないのか」

 「一年中半袖だもんね。冬でも団扇で扇いでるし」


 「扇風機はやめたのか。あいつ、デスクに小型の扇風機置いてたんんろ。年中無休で」

 「ヒデ君が〝頼むから流石に冬はやめてくれ〟ってクレーム云ってから、冬はしなくなったよ」


 「確かにあいつの席、朋靖の隣だもんな」

 「しっかしあれは衝撃的な光景だったよねぇ。冬になっても寒くないどころかむしろ暑いなんてね。でも、そんなトモ君を上回る暑がりが地球上に存在してたなんてねぇ」

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