第8話 明かされる問題の原因

 翌日、公爵邸の貴賓室。

 リバーマーマンの怒りの原因について、ナオキから公爵へ調査結果が報告された。リズは同席しているが、アラゴは昨夜のこともあり、宿屋で休ませている。

 ナオキの報告を聞き、頭を抱えた公爵。


「リバーマーマンが怒るのも当たり前です……彼らにどう詫びれば良いのか……そして、アラゴ様にも……」


 コン コン


 貴賓室の扉がノックされた。


「入れ」

「失礼いたします」


 ガチャリ


「父上、お呼びでしょうか」


 貴賓室に入ってきたのは公爵の息子、長男のアルフレッドだ。

 アルフレッドは、ソファに座っていたリズの姿を見て驚く。昨夜、自分と仲間たちを叩きのめした聖女がいたからだ。

 アラゴを深く傷付けた金髪イケメンの正体は、アルフレッドだったのだ。

 ナオキとリズに睨まれて身体が震え出すアルフレッド。


「アルフレッドよ、ワシはお前に緊急時の脱出用大型船の建造を依頼したな」


 公爵からは静かな怒りを感じる。


「は、はい。もうまもなく完成いたします」

「その船は、船首に女神像を飾り付けているそうだな」


 アルフレッドは満面の笑みを浮かべた。


「はい、父上! とても美しい女神像です! その美しさをさらに際立たせるために像に加工を行い、その魅力は倍増! 船の魅力もまた大きく増したものと思います! 父上にもぜひ――」

「馬鹿もの! 誰が豪華客船を建造しろと言った!」


 アルフレッドの言葉に被せるように、公爵は怒鳴り声を上げた。

 褒めてもらえると思っていたアルフレッドは驚く。


「その女神像はどこにあった!」

「か、川の上流の古びた神殿に……あんなところに置いておくよりも船の装飾に――」

「あの神殿は、リバーマーマンたちが信仰する水の女神様の神殿だ! リバーマーマンたちが激怒しているのは、お前が像を盗み出したからだ!」

「! いえ、でも……」

「その女神像をどう加工したんだ! 言ってみろ!」

「は、はい……衣の部分を削って裸身に……」

「リバーマーマンたちはそれを見ておる! 信仰の対象となる女神様をはずかしめるとは何と愚かな……リバーマーマンたちが激怒するのも当然だ!」


 頭を抱える父親の姿にオロオロすることしかできないアルフレッド。


「……しかも、魔王討伐のために過酷な旅を続けるアラゴ様を愚弄ぐろうしたらしいな……差別的な言葉を吐き、ひとの心があるとは思えない卑劣な方法で……!」


 父親である公爵、勇者ナオキ、聖女エリザベスの三人から睨みつけられるアルフレッド。ごくりとツバを飲み込んだ。


「……出ていけ」

「えっ」

「この家から出ていけ!」

「ちょ、ちょっと……」

「お前とは縁を切る!」

「わ、私は長男……」

「先ほど陛下宛に早馬を出した」

「早馬を?」

「お前を廃嫡はいちゃくし、縁を切る旨の届け出だ!」

「お待ちください!」

「私は口酸っぱく、何度も言ってきたはずだ! この街の歴史をきちんと学べと! 住民やリバーマーマンの心に寄り添えと! 年寄りを敬い、子どもたちや女性を大切にしろと! 異種族への差別意識を無くせと! お前は何一つ成し得ていないではないか!」

「父上!」

「私を父と呼ぶな! お前はもう息子ではない! お前に貴族という立場は不釣り合いだ! 即刻この家から出ていけ! 金輪際顔も見たくない!」


 公爵の厳しい言葉に、アルフレッドは何も言い返すことができない。そして、そのまま放心状態でふらふらと貴賓室を出ていった。


 公爵はソファに腰掛け、怒りに震えながらも悔しそうな表情を浮かべ、その目に涙を浮かべている。親の心子知らず。どんな理由があるにせよ、親が子どもに絶縁を宣言することがどれだけ辛いことなのか、父親に自分以上の辛い思いをさせていることをアルフレッドはまだ理解できていない。

 血が滲むほど強く握られた公爵の拳にリズはそっと手を添え、ナオキも背中に優しく手を添えた。


 こうして事件の原因追及と断罪は遂げられた。



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