第7話 明日に架ける橋

「アラゴ! アラゴ、どこだ!」


 ダンスホールから飛び出したアラゴを追いかけてきたナオキ。アラゴを見失ってしまい、夜の街をアラゴの名を呼びながら彷徨っていた。


 オイルランプの街灯に照らされた石橋。橋の下には、大河へとつながる小川が流れていた。その橋の下からバシャバシャと激しい水の音が聞こえる。ナオキは橋のたもとから土手を降り、音のする方に近付いていった。


「……スン……スン……うぅ……スン……」

「アラゴ……」


 そこには一糸まとわぬ姿で、泣きながら自分の身体を小川の水で洗っているアラゴがいた。


「アラゴ、もうやめろ! 擦りすぎて身体が真っ赤じゃないか!」


 アラゴの手を取るナオキだったが、アラゴはナオキを振り払った。


「アラゴ、臭いから……バケモノだから……不釣り合い……うぅ……」


 涙をポロポロと零すアラゴ。

 そんなアラゴを抱き締めるナオキ。


「バケモノにこんなことできるか?」

「ううぅ……」

「臭かったらこんなことできないよな?」

「ナオキ……」

「アラゴからは良い匂いしかしないよ。ホッとする優しい匂いだ」

「……ホント?」

「俺がアラゴに嘘ついたことあるかい?」


 アラゴは首を横に振った。


「……帰ろう、アラゴ」


 微笑むナオキを涙ながらに抱き締めるアラゴ。

 ナオキもアラゴの背中に手を回した。


 薄暗い小さな石橋の下。

 体格の違うふたりが抱き合う姿はどこかいびつだったが、川面かわもに反射した月明かりがふたりを淡く包み込み、とても美しかった。


「私の出る幕はありませんわね」


 少し離れたところから、ふたりを優しい眼差しで見守っていたリズ。

 しかし、その表情は複雑だ。


「……いいなぁ、アラゴ……」


 リズは抱き締め合うふたりに背を向けて、宿屋へと帰っていく。

 夜の街をひとり行くリズ。

 その背中はどこか寂しげだった。



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