第5話 ダンスパーティの夜

 ――五日後 ダンスパーティ開催日


 綺麗な星がまたたく夜、リバーゲートの街の大通り、ナオキが渋い顔をしてひとり歩いていた。リバーマーマンとの軋轢あつれきの原因は、やはり人間側にあったからだ。公爵にも報告をしなければいけないが、今はリズとアラゴとの待ち合わせ場所に向かっている。これもナオキに渋い顔をさせている要因のひとつだ。


 アラゴの優しい心に惹かれていたナオキ。正直言えば、アラゴとあの金髪イケメンが身体を寄せ合ってダンスする光景は見たくない。それでもアラゴが幸せになるのであれば、パーティから離脱させようと心の中で決めていた。

 そんなアラゴに渋い顔を見せてはいけないと、自分の頬をパンパンと叩き、ナオキは街の仕立て屋へ急いだ。


「ナオキ様、こちらです」


 仕立て屋の前でリズが待っていてくれていた。

 その満足そうな笑みを浮かべるリズ。


「ナオキ様、驚かないでくださいね」

「うん? 驚くって――」


 仕立て屋から出てきたアラゴの姿に、ナオキは言葉を失った。

 上品な輝きを見せるブラックサテンのドレスをまとったアラゴ。豊満な胸を強調する大胆に開けた胸元。しかし、その胸元や肩、腕は水玉ドット模様が入ったシースルーレースに包まれ、その妖艶さを上品に演出しながら、筋肉質なアラゴの腕を上手に隠している。健康的な足を時折のぞかせるスリットも下品には見えない。パンプスはかかとを潰した特別仕様だが、ワンポイントの小さな宝石の輝きが優美さを演出していた。


「――アラゴ」

「あ、あう……?」

「すごく……すごく綺麗だよ」


 ナオキの言葉に、頭のてっぺんから湯気が立ち上る程に顔を赤くするアラゴ。


「アラゴ、良かったね。綺麗だってさ」


 リズの言葉に、嬉しそうに頷くアラゴ。


「じゃあ、ダンスホールに行こうか」


 ナオキの一言に、アラゴは寂しげな表情を浮かべた。

 そんなアラゴにリズが提案する。


「あの金髪君と踊った後、ナオキ様とも踊ったら?」


 突然に提案に困惑気味なアラゴに片膝をつくナオキ。


「俺と踊っていただけますか、アラゴ姫?」


 アラゴに手を差し出すナオキ。

 その手に自分の手を嬉しそうに重ねるアラゴ。

 それを横でニヤニヤしながら見ているリズ。


「あらあら、私はお邪魔かもしれませんわね?」

「リ、リズも一緒に!……あうぅ……」


 慌てるアラゴを見て大笑いするナオキとリズ。


「よし! じゃあ行こうか」


 剣と鎧を仕立て屋に預けるナオキ。

 リズは自分の長杖を宿屋に預けてあるようだ。

 三人はダンスホールへと向かっていった。


 街の中でも一番賑やかな繁華街。その中心にダンスホールはあった。

 ここに来るまでもアラゴは注目の的だった。ワイルドでセクシー、かつエレガントな女性のオーガに男性はもちろん、女性たちの目も釘付けだ。恥ずかしさから下を向く度に「ほら! 背筋を伸ばして!」とリズに背中を叩かれていた。


 ダンスホールに入ると、楽団による軽やかな音楽が流れていて、何組かのカップルがすでにダンスを楽しんでいた。アラゴの緊張がナオキとリズにも伝わってくる。まだ自分がこの場に不釣り合いだと考えているのだろう。

 そして、ホール窓際のバーテーブルでお酒を飲んでいる金髪イケメンを見つけた。三人の男性と談笑している。距離が離れているせいか、こちらにはまだ気がついていない。

 ナオキに笑顔で背中をポンッと叩かれるアラゴ。緊張の面持ちでゆっくりと近づいていく。


 曲の切れ目で楽団の音楽が途切れる。

 テーブルの声が聞こえてきた。


「そのバケモノ女、ホントに来んのかよ?」


 仲間の男性の一言にアラゴの足が止まる。

 そして、金髪イケメンは――


「俺様の口説きのテクをナメんなよ。魔物のメスも楽勝で落とせるって。来たら銀貨五枚だからな」


 ――アラゴを賭けの対象にしていた。



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