第4話 口説かれる鬼女

「ぜひダンスパーティで私と踊ってください!」

「あ……あうぅ……」


 公爵の屋敷を出てアラゴの元へ戻ると、身なりの綺麗な金髪のイケメンがアラゴを口説いていた。

 ナオキとリズの存在に気付いたアラゴは、助けを求める視線をふたりに送る。

 ナオキとリズが近付いても、金髪イケメンは視線をアラゴから外さない。


「その素晴らしい肉体美は、国で最高の彫刻家であっても再現はできないでしょう! そして、何よりもその美しさが私の心を鷲掴みにしたのです! 実は今、豪華客船を建造中で完成目前なのですが、ダンスパーティの後は、ぜひそちらに私と乗船していただきたい! 船首に美しい女神像を飾り付けた素晴らしい船です! 船に揺られながら、私とロマンチックな甘い夜を過ごしませんか?」


 頬を赤くしながらも、ナオキをチラチラと見るアラゴ。

 そろそろ仲裁に入ろうかとナオキが声をかけようとするが――


「五日後の夜、街のダンスホールであなたを待っています! これは運命の出会いなのです! ずっと、ずっと待っていますからね! それじゃあ!」


 ――言いたいことだけ言って、金髪イケメンは立ち去っていった。


「アラゴ、良かったな! あんなイイ男に誘われてさ!」


 頬を赤らめながらも、首を左右にブンブン振るアラゴ。


「私、踊り、知らない」

「大丈夫ですわ、相手のリードに任せるだけですから」


 リズの言葉にも、アラゴはどこか自信なさげだ。


「よし! 公爵様の件は俺ひとりでやるから。リズはアラゴを頼む!」

「あうぅ!?」

「もちろんですわ! ご予算は……」

「あるだけ使っていいぞ!」

「むふふっ! この聖女エリザベスにおまかせくださいませ!」

「あぅあぅ……」


 ふたりは、アラゴを荒療治で自信を持たせることにした。

 まだ何もしていないのに、ひとりオロオロしているアラゴ。

 それを横目にささやき合うふたり。


「……リズ、頼むな」

「……はい、わかっております」

「……アラゴ、この街に残してもいいしな」

「……ナオキ様」

「……ん?」

「……ご自身のお気持ちは……いいんですか?」


 リズは、アラゴをひとりの女の子として見ているナオキの気持ちを理解していた。


「……アラゴが幸せになるんだったら……」

「……そうですか……わかりました」

「……ふたり旅になったら、頼りないかもしれないけど……俺、ちゃんとリズを守るから」

「……ふふふっ、ありがとうございます、勇者様」


 アラゴに向き直るリズ。


「じゃあ、アラゴ! まずはドレスを作りに行きますわよ!」

「ド、ドレス!? 私、似合わない!」

「グダグダ言わない! 時間がありませんわ! ほら、急ぎますわよ!」


 リズは、アラゴの腕を掴んで街へ引きずっていった。

 それを笑顔で見守るナオキ。


「さて、俺もリバーマーマンの件、動いてみるか。長年友好関係があったのに突然激怒……『絶対に許さない』という言葉……まずは、話を聞いてみないとな……」


 ナオキは渡し船乗り場へと向かっていった。



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