第2話 リバーゲートの街

「もう少しで、次の街に着きますわね」


 街道で三人の先頭を歩く聖女・エリザベス(リズ)。

 その頭のてっぺんには、膨れたお餅のような立派なタンコブが出来ていた。どうやら「ご休憩」は失敗したらしい。

 その後ろを膨れっ面で歩く勇者・ナオキと、苦笑いでその隣を歩く鬼女・アラゴ。


「あの……ナオキ様の隣を歩きたいのですが……」

「もうリズの隣では歩かん。優しいアラゴがいい」

「あ、あうぅ……」


 頬を赤く染めて、照れるアラゴ。


「アラゴ……可愛いわね……(ごくり)」


 聖女は節操がなかった。


「あっ! リバーゲートの街が見えてきましたわ!」


 街道の先に大きな街、そして海と見間違えるような大河が見えてくる。

 たくさんの建物が立ち並び、大勢の人々が行き交っており、遠目にも栄えていて賑やかな街であることがうかがえた。


 川関所の街・リバーゲート。

 この大陸を流れる大河ネトマータ川に面し、川の渡し船の乗船場所が関所となっているこの国の玄関口だ。隣の国との入出国には、この川関所にて審査をパスする必要があり、パスしなければ渡し船には乗れないし、入国もできない。穏やかな流れの川だが、渡り切るのに一昼夜かかる程の巨大な川であり、また川の中ではリバーマーマン(川の中で暮らす半魚人)が国境警備隊として活動しており、渡し船以外で川を渡ることは極めて困難である。


 リバーゲートの街への入口に備えられた大きな門の前に、ひとりの中年男性が立っている。ナオキよりも長身で美しい金髪を綺麗にセット。その整った身なりは貴族であることをうかがわせた。

 三人へ近づいてくる男性。


「ナオキ様、エリザベス様、アラゴ様ですか?」

「はい、そうですが……」


 ナオキの返答にホッとした表情を見せる男性。


「ようこそ、リバーゲートの街へ。私は街と、この一帯を領地としておりますアレキサンドラと申します」


 リズが真面目な面持ちで一歩前に出る。


「アレキサンドラ公爵閣下、初めてお目にかかります。教皇より聖女の称号を賜りましたエリザベスと申します」


 美しいカーテシー(女性の膝折礼)を見せるリズ。


「おぉ、聖女様! これは恐れ多い!」


 そんな様子をシラァ~っとした視線で見ているナオキとアラゴ。


「……アラゴ、はるか東方の国ではこういうのを『猫をかぶる』っていうんだ。覚えておこうな……」

「あう……」


 公爵の案内で街の大通りを歩く三人。


「本来であれば馬車でお迎えにあがるのですが……」

「すごいひとの数ですね。賑やかで良いことではありませんか」


 ナオキの言葉にうなだれる公爵。


「……それが……実は今問題を抱えておりまして……街にひとが多いのはそのせいなのです……私の屋敷でご説明します……」


 ひとの波をかき分けること十五分、高台にある公爵の屋敷に着いた。

 様々な綺麗な建物が立ち並ぶ街とは対象的に、屋敷はそれなりの大きさだが、とても質素で公爵という高位な貴族の住居としては不釣り合いなほどだ。


「汚い屋敷で驚いたでしょう。貴族と言えど、衣食住は最低限で良いのです。その分、街の整備や川の氾濫への備え、魔王の襲来に備えた街の人々の大型脱出船の建造などに予算を割いています。私たち貴族は領民たちに生かされているのですから、収めてもらった税を街や領地、住民のために還元することが大切なのです。とはいえ、領主としてもっと立派な屋敷に住んでくれと、住民たちから指摘を受けることも多いですね」


 貴族の責務ノブレス・オブリージュ。それを忘れて、その立場にふんぞり返っている貴族は多い。質素な屋敷と照れ笑いする公爵の姿に、三人は高貴な貴族の精神を垣間見た気がした。



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