勇者と聖女と鬼女

下東 良雄

第1話 勇者と聖女と鬼女

 林の中を一本の大きな街道がまっすぐに続いている。二頭立ての馬車が通れる位のそこそこの広さの幅で、舗装はされていないものの、踏み固められた道は交通量が多いことを物語っている。

 そんな街道を徒歩で進む三人組がいた。

 身長は一七〇センチ程、ブレストプレート(胸を中心に上半身を保護する金属製の鎧)を身に着け、腰には長剣を下げた黒髪ショートの若い男性。

 その横には男性よりも小柄で、白い法衣に身を包み、先端に金でできた太陽を模したような装飾が施された長杖を手にした金髪ストレートロングの若く美しい女性。

 そして、そのふたりを守るように後ろを歩いている二メートル超の長身、筋骨隆々な茶褐色の肉体を革鎧で包み、背中に巨大な戦斧を背負った赤髪ロングウルフの女性。


 異世界から召喚されてきた勇者・ナオキ。

 清浄な心を持つとされる聖女・エリザベス(愛称・リズ)。

 一騎当千の強さを誇る鬼女・アラゴ。

 勇者一行である。

 復活した魔王の討伐を目指し、王都を出発して一ヶ月が経過しようとしている。過酷な旅が続いていた。


 街道を無言で歩いていく三人。


「ナオキ様」

「ん?」

「次の街までまだ遠いでしょうか」


 リズの言葉に、ナオキは懐から羊皮紙の巻物を取り出し広げた。


「地図を見る限りだと……あと二時間くらいかな」

「街、近い」

「そうだな」


 アラゴの肯定的な言葉に、ナオキは笑顔で答えた。

 しかし、リズは少し疲れている様子。


「リズ、疲れた? 少し木陰で休憩しようか」

「そうですね、休憩しましょう」


 リズはニヤリと笑い、ナオキと腕を組んで道端の木陰へ。


「な、なんだよ、リズ」

「いえ、ほら、休憩しないと」


 木陰の奥、林の中へナオキを連れて行こうとするリズ。


「林の奥は危ないよ、道端の木陰で……」

「そんな場所ではひとに見られてしまいますわ」

「はっ?」

「私は見られても一向に構いませんが」


 リズの顔は、いやらしく歪んでいた。

 息遣いが激しい。


「リズ、ちょ、ちょっと……」

「大丈夫ですわ、痛くしませんから」

「お前は何を言ってるんだ!」

「さぁ、私とめくるめくご休憩に!」

「バ、バカ、やめ――」

「うへへへへ」


 女性とは思えない力でナオキを林の奥へ連れ込もうとするリズ。


「ア、アラゴ、助けて!」


 アラゴは、顔を両手で覆い、指の隙間からナオキたちをうかがっていた。

 ナオキの救いを求める声に、アラゴもリズを止めようと声をかける。


「リズ、無理やり、ダメ」


 そんなアラゴに真顔で優しく語り掛けるリズ。


「いい、アラゴ? はるか東方の国にはこんな言葉があるの」

「言葉?」


 カッと目を見開いたリズは、力強くその言葉を叫んだ。


『イヤよイヤよも好きのウチ!』


 ハッとするアラゴ。


「……深い」


 アラゴの一言にリズは頷いた。


「深くねぇよ!」


 リズはツッコんだナオキに向き直る。

 その表情は、またいやらしく歪んでいた。

 アラゴはまた指の隙間からふたりを見ている。


「さぁ、ナオキ様! 私とあんなことやこんなことしましょう!」

「どんなことだよ!」

「葉っぱの数を数えているうちに終わりますから、ね、ね、ね」

「お前はどこのスケベオヤジだ!」

「このエリザベス様のスーパーテクニックでナオキ様を天国へ!」

「お前は聖女だろうが! 不釣り合いなことをすんな!」

「もちろん純潔は保っておりますわ! ナオキ様へ捧げるために!」

「それがこんな野外でイイんかい!」

「んもぉ〜、わたくしってば大興奮ですわ!」


 林の中へ引き釣りこまれるナオキ。


「ぎゃー! アラゴ! アラゴ、助けてぇ!」

「ちっ、往生際の悪い……アラゴ、『イヤよイヤよも』?」

「『好きのウチ』!」


 アラゴはナオキを見捨てた。


「『好きのウチ』じゃねぇよ! アラゴー!」

「私無しじゃ生きていけなくしてさしあげますわ! ほら、アラゴも一緒にわよ! いらっしゃい!」

「あうぅ……」


 三人は林の奥へと消えていった。

 林の奥からは、ナオキの叫び声がかすかに聞こえていた。


 異世界召喚されてきた勇者ナオキ。

 彼にチートはなかった。




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 かごのぼっち先生から三人のステキなファンアートを頂戴しました。

 ぜひ皆様ご覧くださいませ。

https://kakuyomu.jp/users/Helianthus/news/16818093082788727584



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