第2話 ラキアスのお出まし

 少年は、自分の名前を覚えていなかった。齢が十歳なのは覚えていたけれど。

 胸に生々しく蘇るのは、村を襲った岩や火の塊。

 そして、火山の女神、その正体は三つ目の黄金龍の、黒髪の女性。その名をラキアスという。炎の中でも美しく笑んでいた。

 育ったエルフの村を火山の女神なんかに焼かれたくなかった。だからこそ、少年は持っていた小刀で自分の手のひらに傷をつけて、その血で魔方陣を描き、中上位の「氷のゴーレム」を召喚したのだ。

 巨大な氷の体をした怪物、三体だ。召喚した自分だって恐ろしかったさ。けれど、ラキアスは一瞬で、その怪物たちを溶かしてしまった。


「お目覚めかい、ジン」

 凛とした声が聞こえた。この石の洞窟にいるのは、それは。

「ラキアス! 貴様」

 少年は咄嗟に身構えた。

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