第2話
翌日、午前8時50分都営○✕線△△駅3番出口。
街路樹の影に羽那は立っていた。
目の前の大きな交差点は自動車が行き交い、時折大型トラックが通過する音が聞こえる。
羽那は自分より前で信号を待つその男をただ見つめていた。
男は長袖の青いシャツに身を包み、グレーのスラックスはその中に人の足が通っているのか疑う細さをしている。右肩には羽那と同じ鞄がかかっている。
横断歩道を渡って3番出口に向かってくる人たちがチラチラとその男に視線を向ける。
羽那は思わず笑みがこぼれた。
(はぁーー今日も顔ちっさいなー……腰の位置も相変わらず高いし左耳の後ろにあるホクロも最高!長袖着てても分かっちゃう腕の細さ。そして程よい肌の黒み!あーやっぱり朝練がない日は良い!)
言わずもがな、その男こそ朝の忙しない交差点で人々の視線を掻っ攫う高嶺の花だった。
男の名前は
横断歩道を渡り、目の前の坂を登った先にある東智大学附属高等学校に通う2年生。
1年生は羽那と同じクラスだったが、2年生になってからは春彦はA組、羽那はC組になった。
羽那は見つめ続ける。
後ろから近づく影に気づくことなく。
「はーな!信号変わってるよ?」
羽那の背後から現れた声の主は羽那の背中をバシッと叩くと反応を伺うように顔を覗き込んだ。
「いたっ!み、美梅!おはよう……」
美梅と呼ばれた女に話しかけられ羽那は信号を見上げる。
デジタル信号は既に変わっていて上の画面には半分ほどの光の粒が残っていた。
ふと気づいて春彦に視線を戻すと立ち止まっていたような気がした春彦はもう横断歩道の向こう側だった。
「まーたストーカーしてんのー?程々にね」
美梅は羽那に寄りかかっていたのをやめると歩き出した。
「ストーカー!?そんなことしてないよ!」
羽那は心外だとでも言うように美梅の言葉に食いつく。
「はいはい、行くよ。」
急かされた羽那は鞄を肩にかけ直し、美梅と呼ばれた女の横を歩き出した。
羽那は隣を歩く女を見つめる。
のクラスメイト。
春彦に負けず劣らず外では人目を引く美人だ。
しかし、やたらと面倒臭い男が寄り付きやすく親しい友人間で着いた異名はダメ男ホイホイ。
現時点で彼氏は居ない。
同性である羽那ですら見ていて心地の良くなる美梅。異性にも物怖じせず話しかけることができるが、誰とも一線を引いており、自分という芯がしっかり通っている。
こんな完璧な人間が羽那の友人であることは羽那自身が一番信じられないのだった。
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