7-3

 なあ、兄弟。

「また新しい幻聴ですか。もう話しかけないで下さい」

 ぶっちゃけた話をしようぜ。

 そうだろう、兄弟。

「僕は疲れました」

 こっちは疲れてないぜ。

「勝手にして下さい」

 簡単に見えて複雑な事象を語るには、どうしたって知性の一つや二つが必要になるのは当たり前だ。森の中にいるなら礼儀の一つや二つを持っていて当然だろう。

 なぁ、そうだろう。

 ぶっちゃけた話をすれば東京都の意思よりも一番ヤバいのは三ツ星区画であり久十字路町の意思だろ。

 何も教えないのに使命であるとか義務であるとかそういう類のものは押し付けてくるんだぜ。明らかなミス。そういうのを訂正しようとしない。

 上塗りの繰り返しの先では、いつだって誰もが同じ表情で生きているんだぜ。分かってるだろ。もうすぐお前がなろうとしているものだよ。

 一番悪いのはお前ってことになる。本当さ。嘘じゃない。お前が悪役になるんだ。陰謀論だと言って笑っていた奴らの顔が思い浮かんでは消えていくのなら、脳みその路地裏には真夜中がつきものだぜ。

 なぁ、おかしい話だぜ。

 これは変だ。いや、妙なことばかりだぜ。

 なあ、兄弟。

「お願いだから黙って下さい」

 いや、黙れないぜ。この会話は間違いなくヴェリヴェリインポウタント最優先事項。気になる点が多すぎるぜ。

「何が気になるのですか」

 デッドバーストふれあい祭りがあったとして。

 蘇りの儀式があったとして。

 それをよく知りもしない高校生に準備を手伝わせるかね。

 しかも大役中の大役である誰を蘇らせるかを決めさせるなんて妙な話だぜ。むしろ大人たちはお前からその役目を奪おうとしたっていいはずなのに、それも起きない。

「確かに気になりますね」

 あり得ないね。

 ぶっちゃけた話あり得ない。

「では、何だというのですか」

 聞くな、自分で考えろ。

 高校生にもなった頭の悪い紳士。

「分かりました。自分で考えますので黙って下さい」

 いやいや黙れないぜ。

 お喋りこそが生命の本質だってことを伝えておきたいぜ。

 なあ、兄弟。

 オーパーツってよくわからないと思わないか。少なくとも俺には分からないもんだぜ。ぶっちゃけた話、祀り上げられた造形物の価値なんてその空間を共にする人間の意思そのものだと思うんだけども。

 ここはインラ遊園区画だっけか。忘れちまうよ、そんな長い名前だと。改名してほしいくらいだぜ。

 いいかい、増殖する蛙の卵は孕ませてなんぼだ。

 それの使い方を知らないんだろう。知らないから普通にそのオーパーツを探しに来てるってことなんだろう。なぁ、それはよくねぇよ。絶対によくない。

 ぶっちゃけた話。

 増殖する蛙の卵の正体はペニスに直接打ち込む丸い薬なんだぜ。

「趣味の悪いオーパーツですね」

 話はこれからだぜ。

「だとしても意見は言わせて頂きます」

 黙ってリッスンだぜ。

 なんていうか、増殖する蛙の卵はBB弾みたいなやつで。それを自分の尿道に入れて、あとはピンセットでも木の枝でもなんでもいいから奥に入れてしばらく待つ。

 そんで射精。

 正確には膣内射精だぜ。

 景気のいいやつが出るぜ。

 で、そいつが誰かを孕ませる。

 孕ませただけで終わらないから増殖する蛙の卵なんだぜ。お前は次から次へと孕ませたくなる。別にレイプをしたいとかそのレベルじゃあないけどやめられなくなる。そうして次から次へと孕ませて自分でも制御がしきれなくなったところでペニスから零れ落ちる弾丸。

 それがオーパーツになるんだぜ。

 だから正確には増殖する蛙の卵がオーパーツなわけじゃねぇんだぜ。それはあくまで本物のオーパーツである弾丸を生み出すための道具だ。だからこそオーパーツと同等の価値もある。

 実際、尿道にぶちこみさえすれば、あとは体と脳が勝手にやってくれるから関係がないんだぜ。ぶっちゃけた話、兄弟の魅力が数倍、数十倍に跳ね上がるらしいんだぜ。だったら一度でもぶち込んでみたくなるのが漢だろ。

「あなたと一緒にしないで下さい」

 この幻聴は、お前の内なる声だぜ。否定するのは野暮ってもんだぜ。

「内なる声であったとしても、受け入れるかどうかは僕が決めます」

 その心の強さはヒュージなプロブレムへのエクセレントワクチン。その反面、副作用は絶大で身を亡ぼすこと請け合いだぜ。

 その点は増殖する蛙の卵も同様。副作用があるんだから困ったもんだぜ。

 人間関係がぶっ壊れる。

 な、副作用だろ。薬そのものが持つんじゃなくて人間という社会や文化との齟齬によって生まれる副作用。まさに文系的発想、非理系的副作用だぜ。

 文系とか理系とかいまいちだけど、まぁ、別にいいぜ。右利きとか左利きとかそんなもんだろ。それにこだわるのって、ぶっちゃけた話、バカだけだろ。本当の賢さに分類は必要ないんだぜ。

 とにかく増殖する蛙の卵を手に入れたら尿道にぶちこむのがスマートだぜ。あとは、ほら、一緒にいる女をとにかく孕ませ続けるだけで完璧になるぜ。

 どうってことないぜ。罪悪感は最初だけであとは未来永劫のフラットゾーン。ベージュとブラックの水面が続くばかりのマッシブパラダイス。

 人間関係なんて壊すために構築するもんだろ。

 なあ、兄弟。

 遠慮するなよ。

 阿保のふりでもしなきゃ、快楽を最上位に持っていく人生は築けないぜ。

 冷静に考えればオーパーツ探しなんて一人の人間に任せる方が危なっかしくていけないぜ。もしも集められなかったら。もしも途中で死んだら。もしも権力者に迷惑をかけて大きな問題を起こしていたら。

 蜥蜴のしっぽ切りさ。いつだってサブが必要だろう。

 なあ、兄弟。

 田中ってやつがいただろう。

「はい、います」

 めちゃくちゃもてて、校長の奥さんを孕ませたとか。今の所、関係は切れたも同然。

 あの、田中。

「まさか」

 そのまさかだぜ。

 田中も、オーパーツ集めをやらされてたってわけだ。

「つまり、僕は予備要員だったということですか」

 さあな、どっちがどっちの予備要員なのかは皆目見当もつかないぜ。それにオーパーツ集めをやらされてるのが二人だけだと確定するのも早計ってもんだろ。

「確かにそうですね」

 意外とまともな指摘もできる幻聴なんだぜ。

「ただ、僕が動き出すまでにオーパーツが集まっていなかったことを考えると、仮に他の人たちがいるなら失敗したと考えた方がよさそうですね」

 そういう意味で言うなら特に田中は悲惨そのものだぜ。

 何せ、よりにもよって最初に増殖する蛙の卵を選んで尿道にぶち込んじまった。

 精神がガン上がって、心が戻ってこなくなって、オーパーツ集めを続けられなくなって高校生活に逆戻り。だけど尿道には増殖する蛙の卵だぜ。不憫と悲劇と悔恨の数え役満。無尽蔵の性欲によって田中崩壊。高校生活から親子関係から隣人関係から何から何まで、そのすべてを染め上げちまった。

 田中も、きっと途中でまずいと思ったんだぜ。でも、やめられなかった。病の烙印は余りにも酷だ。しかし、その勇気がなければ落ちていくだけだ。哀れであればあるほど爆笑ものだぜ。

 AVもプレイもエロ漫画もそう。すべては体外に放出された欲望の形の最終形態。答えはないから誰も責任を取ろうとしない。

 これはイズムだ。

 主義主張だ。

 イデオロギーだ。

 しかし空しいばかりの満たされては捨てられる繰り返しの中の日常だ。

 エロイズムに美学を求めるな。掃いて捨てるほどいるそいつらは昨日と今日で顔を変えるのに、いつだって薄っぺらな満面の笑みにプライドを持つ文化人気取りの三流芸者ガールだぜ。

 田中は騙された。

 なあ、兄弟。

 あんたはどうなんだよ。

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